「フランソワーズは来ない」


僕は仲間たちの前で言い切った。


「彼女は不参加だ」

「不参加って、おいおい」
「レーダー無しで戦えってか」


口々に不満が洩れる。当然といえば当然だろう。
しかし、彼女がいつか戦わなくなるだろうということもみんなわかっていたことだ。


「何か戦えない理由でも?」


僕はピュンマを遮るように答える。


「戦いたくないという理由以外に何か必要かい?」


みんなが黙った。
我ながらずるい答えだと思う。なにしろ、ここにいる誰ひとりとしてそう思わない者はいないのだから。
そして、誰かひとりでもそう言ってしまったら、自分も自分もと全員が後に続くだろう。
僕たちはそういう危うい状態で戦っているのだから。

だから僕の発言はかなり際どいはずだった。


しかし。


「…まぁ、しょうがないな。女の子だしな」
「女子どもを守らずして紳士とは名乗れず」


ふっと緊張が解けた。
全員が、003は二度と戦わない、もうここには来ない。再び会うこともない。と理解した。

そうして、何事もなかったかのように作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

「……本当にいいのか?」


深夜、ハインリヒがやってきた。ギルモア邸から見る月は今日は蒼い。


「本当は、声をかけてもいないんだろう」


僕は無言のまま頷いた。


「やっぱり、な。あのオテンバが自分だけ行かねぇなんて言い出すわけがない」


うん。
だから僕は迎えに行かなかったし連絡もしなかった。
これから永遠にしないつもりだ。


「後で知られたら酷い目にあうぞ」
「――構わないよ」


このまま誰からも招集がかからないでいれば、きっとフランソワーズは世界に平和が続いていて何も憂うことなどないのだと信じて
生活していくだろう。

戦っていることを知ったら、絶対に来てしまう彼女。
戦いたくないくせに無理をして。

だから僕は彼女には知らせないことを選んだ。
それに、戦いに参加しないからといって、僕らの仲間の絆が壊れるわけでもない。そんな安易な関係ではないのだ。


「……馬鹿だな」

「うん」


きっと、全てが終わってずいぶん経ってから彼女は気付くだろう。

そして言うだろう。

ジョーのばか

と。


「馬鹿でいいよ」

 

僕は月に向かって呟いた。