僕はいつもいつもフランソワーズのことだけを考えているわけじゃない。

そんなわけ、あるはずないじゃないか。

日常生活において――非日常においても――女のことしか考えてない男って最低だろう?
大体、そういう奴に限って、いざというとき女のことを放っておいて先に逃げたりするんだ。

 

ずうっと前、フランソワーズに少女漫画を読ませられた時のことを思い出していた。
女の子はこういう男のひとがいいの、ちょっとは勉強しなさい――とか何とか言って、まるで宿題のように押し付けられた漫画雑誌。翌日には感想を聞きますからねと念押しされ、僕は仕方なくひとばんじゅうソレと向き合っていたのだけど。

いやはや参った。
どうして女の子ってああいう優男が好きなんだろう。

どの漫画もヒロインの焦がれる相手は生徒会長とかキャプテンとか肩書きを持っていて、そしてヒロインにだけ特別に優しかったりする。
で、常に――ここがポイントだ――常に「ヒロインのことしか」考えない。
何をしていても「きみのことがきになって」しょうがないよ、なんて歯の浮くような気持ち悪いセリフを吐く。

そんな野郎が現実にいるだろうか。

いや、いない。

断言できる。
もし仮にいたとしても、ソイツは絶対に嫌われ者だ。
理由?……気持ち悪いじゃないか。

 

だから僕はフランソワーズにそう言った。
何を勘違いしているかわからないけど、僕にこういうのを期待するなら無理だと。


僕はいつもいつもフランソワーズのことだけを考えて生きているわけじゃない。

 

 

***

 

 

「あら、当たり前じゃない。私だって嫌よ。四六時中女性のことしか考えてない男の人なんか」


翌日、雑誌を返しついでに感想を述べるとフランソワーズはころころと笑った。


「え、でもこういう男のひとがいいって…」
「やあね、本気にしたの」


したさ。


「あくまでも漫画の世界に決まっているでしょう。少女漫画には女の子の憧れが詰まっているんですからね」
「…ふうん」


憧れ。


「憧れてるんだ?こういう男に」
「――そうね」


フランソワーズはちょっと考えるように一瞬視線を外した。


「いいじゃない。憧れるだけはタダなんだし、私もいちおう女の子なんだし」


そう言ったフランソワーズに僕は何と返したんだったか。
きみも女の子だねとか何とか。あるいは、現実を見ろとか何とか。
たぶん、そんなようなことを言ったのだろう。
よく覚えてないから、きっとそこで話は終わったんだと思う。

 

 

***

 

 

どうしてそんなことを思い出しているのかというと、実に不思議なことに僕は今、現実にいる気持ち悪い男になっているからだ。
フランソワーズを含め、世の女子が憧れるという伝説(?)の男に。


フランソワーズのことしか考えられない。

フランソワーズのことしか考えたくない。

僕の生活の全ては彼女のためにあると言ってもいい。
いや、僕の体の全て思考の全て――とにかく思いつく限りの、僕を構成する全てのもの。
それらはフランソワーズのためにある。

傍からみれば、僕はきっとダメ人間だろう。

間違いない。

 

でも、いいんだ。

 

傍からみてダメ人間でも。

だって、きっと、フランソワーズから見れば憧れの男なんだから。

 

だから。

 

だから。

 

 

 

だからフランソワーズ。

 

 

 

 

だから――