「フランソワーズ、僕と一緒に帰ろう」


しかし、フランソワーズは首を横に振った。
険しい瞳。

ジョーは一歩前に進むと手を差し出した。

 

「フランソワーズ。わからないのかい?――僕が本物だよ」

「騙されるな、フランソワーズ。ソイツは偽者だ」

 

フランソワーズは握っているレイガンに力をこめた。

二人のジョー。

どちらかが本物でどちらかが偽者。

自分は本物を選び、偽者を倒した上で本物を連れて帰らなければならない。
しかし、どちらのジョーも見た目は「島村ジョー」そのひとであった。

ジョーAとジョーB。

 

「フランソワーズ、わかるよね。僕だよ」

「騙されるな、フランソワーズ!」

 

同じ瞳同じ声で訴える。
フランソワーズは小さく息を吐くと、レイガンを構えたまま叫んだ。


「本物のジョーなら、お尻にみっつ並んだホクロがあるわ」


えっ!?


フランソワーズの背後に控えるゼロゼロナンバーがざわついた。


「本物なら見せられるわよねぇ?」


ここで!?


おいおいそれは無理だろうという背後からの声を、フランソワーズは肩を揺すってはねのけた。


「さあ、ジョー!」

 

「わかったよ。しょうがないなあ」

と、ベルトを緩めたのはジョーA。


「えっ!?お尻?ホクロ?」

と、慌てて両手を尻に当てたのはジョーB。

 

フランソワーズは微笑んだ。


「わかったわ。偽者はあなたよ!」


そうしてレイガンの引金を引いた。

 

 

***

 

 

「いやあ、びっくりしたよ。まさか人前であんなこと言うなんてさ」


帰りのドルフィン号のなかでのんびり言うジョー。


「でも効果的だったでしょ?」
「そうだけどさ。…知らなかったから」
「何が?」
「自分の尻にホクロがあるなんてさ。しかもみっつ並んでるなんて」

フランソワーズはくすりと笑った。

「ばかね。ないわよ、ホクロなんか」
「えっ?」
「そんなの嘘に決まってるでしょ」
「ええっ」
「ジョーの反応で本物が見分けられると思ったの」

そしてそれは成功した。

「なんだ、そうなのかぁ」

くすくす笑うフランソワーズをしばし眺めたあと、ジョーは少し身を乗り出した。

「でもさ、フランソワーズ」

他のメンバーには聞こえないように。

「きみは僕の尻について、随分詳しいひとになってるみたいだけどいいのかい?」

フランソワーズはそんなジョーの鼻を指でつついた。

「私たちのこと、まだ誰にもばれてないと思ってるの?」
「!?」
「おばかさん」


そのまま固まったジョーを横目に、もしかしたら別のジョーを連れて帰ったほうが案外正解だったかもしれない、と溜め息とともに思うフランソワーズだった。

 

 

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