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最終日である今日の公演も大成功に終わった。
団員・スタッフの間に安堵の笑みが浮かび、各々が達成感と満足感に包まれていた。
楽屋には花が並び、更に終演後には友人や知人が祝福の挨拶に訪れていた。

そんななか、フランソワーズはひとり静かに身支度を整えていた。

周囲の喧騒は聞こえていたけれど、それも遠かった。
彼女の中にあるのは、ただただ満足感ばかりだった。今日この公演を観に来てくれた客、それからホールのスタッフ、公演スタッフ全てに心から感謝をしていた。そして、頑張ってきた自分にも。

――頑張ったわね、フランソワーズ。

きつい練習にも耐えてきた。ダメ出しにどうしたら良くなるのかわからず、更衣室で泣いたこともあった。
けれども、ただひたすら頑張ってきた。何より、いま踊っていられることが嬉しかったから。

「――フランソワーズ。これからどうする?」

友人が声をかけてくる。

「どう、って、打ち上げでしょ?」
「そうだけど、時間があるし、どこかでお茶でもしない?」

今日は公演後にお疲れ様会があるのだが、それは今から約1時間後だった。スタッフ全員の手が空くまでそのくらいの時間的猶予が必要なのだ。

「そうねぇ・・・。でも、遅くなるから、先に荷物の準備をしておいたほうが良くないかしら」
「大丈夫よ!みんな同じなんだから」
「でも・・・」
「そんなの、打ち上げのあと寝なければいいのよ」
「でも・・・」
「明日の移動の時に寝ればいいじゃない。大丈夫。――ね?行こ?」
「そうねぇ・・・でも」

フランソワーズは彼女に向けた視線を数センチ横に移動させた。
彼女の隣には、彼女の恋人が立っていたのだった。

「――せっかくなんだから、ふたりで過ごしたほうがいいんじゃない?」
「えー?!」

ふたりが顔を見合わせ、彼女が恋人の背中をどつく。

「せっかくなんてもんじゃないってば。フランソワーズ、コレが居るのが嫌だったらどっかにやるから大丈夫よ」

えー、せっかく来てやったのにー。誰も来てって頼んで無いじゃん。という二人の会話に苦笑する。

「・・・いいから、ふたりで行ってきて?私はやっぱり荷物の整理をしたいし」
「んー・・・・だけど」
「あら、知らないでしょ?私って意外ととろいのよ。だから、荷造りも人より時間がかかっちゃうの」

もちろん、嘘である。
荷造りなぞ何度も何度も経験していたし、時にはメンバー数人の分も準備したりしていたものだった。

「――そう?そういうことなら、無理言わないけど・・・」
「ね?あとで、打ち上げの時にまた」

名残惜しそうに振り返りつつ、けれどもしっかり腕を組んで歩いて行く二人の姿を見送る。

少しため息。

うらやましいわけではなかった。こんな光景は見慣れているし、自分に知人が少ないのも知っている。
いつも、フランソワーズの元に個人的に訪れるひとは限られており――大抵はグレートだった――それがいない地方公演だって、今日が初めてというわけではないのだ。

楽屋を出て、スタッフ専用出口に向かう。

「あれ?フランソワーズ?」

名前を呼ばれた。