最終日である今日の公演も大成功に終わった。 そんななか、フランソワーズはひとり静かに身支度を整えていた。 周囲の喧騒は聞こえていたけれど、それも遠かった。 ――頑張ったわね、フランソワーズ。 きつい練習にも耐えてきた。ダメ出しにどうしたら良くなるのかわからず、更衣室で泣いたこともあった。 「――フランソワーズ。これからどうする?」 友人が声をかけてくる。 「どう、って、打ち上げでしょ?」 今日は公演後にお疲れ様会があるのだが、それは今から約1時間後だった。スタッフ全員の手が空くまでそのくらいの時間的猶予が必要なのだ。 「そうねぇ・・・。でも、遅くなるから、先に荷物の準備をしておいたほうが良くないかしら」 フランソワーズは彼女に向けた視線を数センチ横に移動させた。 「――せっかくなんだから、ふたりで過ごしたほうがいいんじゃない?」 ふたりが顔を見合わせ、彼女が恋人の背中をどつく。 「せっかくなんてもんじゃないってば。フランソワーズ、コレが居るのが嫌だったらどっかにやるから大丈夫よ」 えー、せっかく来てやったのにー。誰も来てって頼んで無いじゃん。という二人の会話に苦笑する。 「・・・いいから、ふたりで行ってきて?私はやっぱり荷物の整理をしたいし」 もちろん、嘘である。 「――そう?そういうことなら、無理言わないけど・・・」 名残惜しそうに振り返りつつ、けれどもしっかり腕を組んで歩いて行く二人の姿を見送る。 少しため息。 うらやましいわけではなかった。こんな光景は見慣れているし、自分に知人が少ないのも知っている。 楽屋を出て、スタッフ専用出口に向かう。 「あれ?フランソワーズ?」 名前を呼ばれた。
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