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「打ち上げ会場がどこか知ってる?」

振り返るとそこには、いつものパートナーの彼の顔があった。

「ええ。さっき聞いたわ」
「一緒に行かない?」
「うーん。でもこれから、いったんホテルに帰って荷物の準備をしようかなって思ってるんだけど」
「荷物?だってフランソワーズ、そんなにたくさんの荷物を持って来てたっけ?」

不審そうに見つめてくる。
ここのところ、ずうっと一緒に組んでいる彼は話しやすく、心許せる友人のひとりだった。

「――ばれた?」
ちらりと舌を出す。
「そりゃー、ばれるさ」

一緒に外に出る。

「そんな嘘を言われたら、避けられてるのかもって疑うぞ」
「あら、そんなにショックだった?」
「ショックショック。立ち直れない」
「ふふ。冗談に決まってるでしょ。――でもいいの?お友達とか、一緒じゃないの?」
「うん、大丈夫。――あ、荷物持つよ」
「平気よ、これくらい」
「ダメダメ。トウシューズより重いものを持たせるわけにはいきません」

そう言ってフランソワーズの肩からバッグを外し、自分の肩にかける。

「――いつもありがとう」
「どういたしまして」

見る者が見れば、まるで恋人同士かのような。
けれども、それぞれお互いに思い人が居ることはちゃんと知っている。だから、仲の良い友人同士以外の何者でもなかった。

楽屋口からしばらくは桜並木が続いていた。
ホールの周囲には桜の木がたくさんあり、どれも満開だった。

「――綺麗ねぇ・・・」
「そうだね。フランソワーズは花見はした?」
「ううん。レッスンの帰りに近くの公園に寄ったりはしたけど・・・」
「ふーん。じゃあ僕と一緒だ」
「あら。彼女とデートしたりしないの?」
「――なかなか時間が合わなくてさ。そういうそっちはどうなんだよ?」
「同じ。時間が合わなくて」
「そうなんだ。じゃあ、いまこうして桜を見てるのが花見になるかな」
「そうね。――綺麗ね」

しばらく無言で頭上を仰ぐ。
暗い空を背景に浮かび上がる、白く輝る花々。
風が吹くたびに舞う花びら。

公演後の満足感に伴う軽い疲労感と、気の置けない友人の存在がフランソワーズの心を癒していった。

――思ったより緊張していたのかも。

自分がかなり神経質になっていたのにも今頃気がついた。
気が抜けて初めて、気を張っていたことがわかった。

「――あのさ」
「なあに?」
「フランソワーズの彼・・・って、いま何してるのかな」
「えー?」

どうしてそんな事を聞いてくるのかわからず目を瞠る。
今まで彼の口からそんな問いがなされた事はなかった。

「・・・どうして?」
「なんとなく」
「・・・海外に行ってるけど」
「出張とか、そういうの?」
「ええ、まぁ」
「ずうっと行ってるんだ?――外資系のひと?」
「うーん・・・そんな感じ、かな」
「行ったら長いの?」
「そうね。数ヶ月は」

そこで足を止める。
成り行き上、フランソワーズも立ち止まる。

「どうしたの?」

すると彼はにっこり笑って――