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車をパーキングに入れるのももどかしく、助手席の荷物を手に取り、会場へ急ぐ。
終演にはじゅうぶん間に合っているはずだった。
けれどジョーは、そのへんの時間の流れを全く知らなかったので――通常、公演が何時間くらいで終わるのかや、その後のアンコールにはどのくらい時間がかかるのか――ともかく急ぐしかなかった。
ホールに入り、中へ入ろうとしたところで止められた。そういえばチケットなぞ持っていなかった。
そこで楽屋へ回ろうとしたが、出入り口で止められた。
スタッフ関係者か家族でなかれば入れるわけにはいかないという。
――家族。
そう言おうかと思い――やめた。
そんな事を言って彼女に迷惑がかかるのも困る。
仕方なく、建物の外に出た。意味もなくぐるりと一周してみる。すると、「楽屋口」というドアがあった。どうやら、関係者が荷物の搬入・搬出をしたりするのに使うらしい。
少し待っていると、徐々にそこから人が出てきた。
髪をアップにまとめている者もいたので、どうやら出演者らしいとあたりをつける。ということはつまり、ここから彼女は出てくるはずで――
けれども、真正面にただ突っ立っているのも、見ようによっては変質者っぽい。
出演者に異常な執着を持つ変質的なファンと思われるのは避けたかった。
――まぁ、ある意味合ってるけどな。
フランソワーズに対してはそういう面もあると認めている彼は、まさにいま「バレリーナ・フランソワーズの追っかけ」だった。
どこで待てば彼女を見逃さないかあれこれ考え、少し先にある桜並木のところで待つことにした。
軽く木にもたれて――じっと、楽屋口ドアの開閉を見つめた。
実はジョーは、最初から「公演を観る」という意志はなかった。だからチケットももちろん持っていない。
今日、時間を気にしていたのは、「終演直後に間に合う」ことが目的だったからだった。
終演直後から待てば、必ずフランソワーズに会える。けれども、少しでも遅れたら、もし彼女が急いでいたら、擦れ違いになってしまうかもしれない。
それでは意味がないのだ。
手に持ったソレを覗き込み、セロハンがつぶれていたところを直す。
・・・・でもなぁ。やっぱり柄じゃないんだよな。
もう今回きりにしよう――そう心に決めていた。
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