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忙しいジョーはすぐに鈴鹿へ戻って行った。 彼の後ろ姿を見送り――胸にバラの花束を抱き締めた。
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無事に打ち上げも終わり、――フランソワーズとそのカレシの話で一部で大いに盛り上がったことは言うまでもない――いまはホテルの部屋に居る。 卓上のバラの花束を見つめ、そうっと自分の唇を指でなぞる。 一瞬の逢瀬。 そして、耳を掠めた彼の声を思い出していた。 『忘れないで。僕は君のファン第一号なんだからね』 ジョーったら。 と言うと、彼は絶対に拗ねるので未だに言えていない。 小さくため息をついて、そのままテーブルに身体を倒す。両肘を曲げて枕代わりにして。 本当に一瞬だったけれど、それでも嬉しかった。 来てくれたことが。 約束を憶えていてくれたことが。 ――この花、どんな顔して買ったんだろう? それを思うと笑みが浮かんでくる。 きっとすごーく汗かいて・・・そして、焦ってつい「全部ください」って言っちゃったのよきっと。 セロハンと、薄いピンクの紙に包まれ、ゴールドのリボンで束ねられている。 プレゼントです。・・・だけじゃ、ないわよね? 彼女に贈るんです。とか、言ったのかしら? ――聞きたかったな。そう言うの。 胸の奥が温かくなってくる。 大好きよ。 私のジョー。
『知ってるよ。僕のフランソワーズ』
――なんちゃって!! 自分で言って自分に照れるフランソワーズだった。
長年の夢――終演後に楽屋に恋人が来てくれる。花束を持って――が、今日叶った。 人前でキスするのなんて聞いてないもん。 普段とは違うシチュエーションなだけに――これから先もこういうのが繰り返されるのなら、それはちょっと困った事態かもしれなかった。 ・・・いいわ。今度、お返しするから。
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