超銀
    どーんとジョーを押し倒してみたまではいいけれど。   もう、知らないっ!    
   
       
          
   
         ……ここから先はどうしよう?
         そう思っていたら、見透かされたかのように声をかけられた。
         体の下にいるひとから。
         「まさか、これからどうしようなんて思ってないよね、フランソワーズ」
         「えっ?ええ、もちろんよ」
         「そうだよね。今までさんざん教えてきたんだし?」
         「!!!」
         「恥ずかしいとか遣り方がわからないとか、そんな子供みたいなこといわないよね?」

    ジョーに意地悪を言われ、つんと顔を背けたフランソワーズはそのまま彼のからだの上から退いた。 目が合った。 自信満々の笑顔があると思いきや、出会ったのは不安そうな色の瞳だった。   小さく言うと、そうっとジョーを抱き締めた。    
   
       
          
   
         「あれっ、何もしないの」
         「しません」
         「ひどいなぁ。ひとを押し倒しておいてそのままかい?」
         「そのままです」
         「中途半端はよくないよ?」
         「意地悪言うからでしょ?」
         「別に意地悪言ってないじゃないか」
         「言いました」
         「…ふむ。つまり、あれだ。本当に遣り方がわからない、と」
         フランソワーズは答えず、ジョーの上から退いてついでにベッドの上からも退いた。
         そしてそのまま去ろうとしたが、ジョーの手にがっちりと手首を掴まれ阻まれた。
         「馬鹿だなぁ。わからないんだったら訊いてくれればいいのに。いくらでも教えるよ?」
         「なっ…」
         なによそれ!
         途端、頬がかあっと熱くなって、フランソワーズは邪険にジョーの手を振り払った。
         「別に、教えてくれなくてもわかってますっ」
         「へーえ。ほんとに?」
         「ええ」
         「じゃあ、いまなんで逃げようとしたの」
         「それはっ…」
         今日こそは自分が優位に立つはずだったのに。
         当初の目論見が外れ、今やすっかり劣勢かつ防御いっぽうのフランソワーズだった。
         ジョーを困らせるのなんて夢のまた夢に違いない。
         ――それにしても。
         どうしてこのひとって、いつもいつも余裕なのかしら?
         フランソワーズにはそれが不思議だった。
         たまには戸惑ったりとか、そういうことはないのだろうか。
         「フランソワーズ?」
         しかし。
         名前を呼んだ声が少し自信なさそうに聞こえて振り返った。
         「ジョー、どうし」
         どうしたの、と訊く前にそっと言われた。
         「…僕から逃げるの」
         胸が詰まった。
         「…もうっ…ずるいわ」
         そんな顔でそんな声でそんなこと言うなんて。
         置いていけるわけないのに。
