セプテンバー・ヴァレンタイン

 

 

 

自分の頬をつねってみた。
痛くなかった。
やっぱり夢だ。
だって、フランソワーズがこんな事を言うわけがない。
夢なんだ。
・・・夢。
だったら、僕は。

「わかった」

夢の中でくらいは、ものわかりのいい男になって、綺麗に別れてみせる。
現実では絶対できないから。
きっとフランソワーズの前で大泣きするだろうから。

「・・・今までありがとう。フランソワーズ」

余裕でにっこり笑むのさえ、できてしまう。
だってこれは夢なんだから。
夢でなければ、君が僕と別れたいなんて言うわけがない。

 

 

「・・・ジョー?」

蒼い瞳が真ん丸くなっている。
驚いている。・・・その顔も、可愛い。
僕がすんなり別れに応じたから、驚いているんだね。
夢の中でくらい格好つけさせてくれよ。

「ホントにいいの?別れても」
「君がそうしたいなら」

そう言った途端、君の瞳にみるみる大粒の涙が浮かんだ。
どうして君が泣くの?
泣きたいのは、僕の方なのに。
涙がぽろぽろこぼれ落ちてゆく。

「どうして・・・?ジョーは平気なの・・・?」
「だって、別れたいって言い出したのは君だろう?僕は、君の望みならなんでも」
叶えるよ。

と、言ってキメるはずだったのに。
途中で君が胸に飛び込んできたから言えなかった。

「フランソワーズ?」
「どうして『嫌だ』って言ってくれないの?」

だってそれは。
夢だし。
ものわかりの良い僕。っていうのがあったっていいじゃないか。
そっとフランソワーズの両肩を掴むと、僕から離した。

「相手を間違っているよ」