「甘い夜」
ホワイトデーにクッキーを焼いてくれた。 ジョーが。 ……どうして自分のエプロンを持っているのかはさておき。 どうしてイキナリお菓子なんて作っちゃってるの。 にこにこしてクッキーの籠を差し出されても騙されないわ。 ……え?違う? 自分で作った……はあん、なるほど。 ヘレナに作り方を教わったのね。 傷付いたような顔をして、クッキーを手にとり私の口に入れた。 「僕はフランソワーズにしか色目を使わないよ。どう?」 でもジョーは他のクッキーには興味を示さなかった。
あなた、家事全般苦手なはずでしょう?
しかも料理なんて、お湯をわかすくらいしかできなかったはず。
それ、買ってきたものでしょ?
それともヘレンかしら。ううん、あるいはロビン。
ああ、こうして挙げたらどんどんガールフレンドの名前がでてきてしまう。
まったくもう、あなたってほんと無意識のタラシだからたちが悪いわ。
「ひどいなぁ。僕はタラシじゃないよ」
「ん……美味しい」
クッキーは意外に美味しかった。
いったいどんな魔法を使ったのと聞こうとしたら、ジョーが僕も食べると言って私の唇に噛みついた。
「んん」
クッキーならたくさんあるでしょう。
私が食べたのを味見しなくてもいいじゃない。
甘いあまいクッキーの味。
「――ん。砂糖の量、間違えたかも」
ええ、そうね。でもいいわ。
砂糖とバニラ風味のジョーは私の大好物だった。
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