「目を閉じたままで」
こんなこと、している場合じゃないのになあ。
ジョーは我が身を見下ろし溜め息をついた。
赤い防護服は暗い赤へと変色しつつある。その範囲は広がる一方だ。
オイルだろうか。
それとも・・・血液?
どちらでも良かった。
わかったところで、どうにかなるものでもない。
ジョーは再度溜め息をつくと、今度は空を見た。
まったく・・・こんなところで串刺さっている場合じゃないのに。
廃工場だった。
敵を深追いし、入り込んだ。
そして、互いにもつれるように落下し・・・階下に放置されていた剥き出しのパイプらしきものに背中から貫かれた。
一瞬の出来事だった。
ちょうど腰椎のあたりから腹を貫いている。
自分の体から異物が生えているのは異様な光景だった。
しかも、その丈は目測でも2メートルはある。
どう頑張っても抜くのは無理だった。
否。
無理ではないが、やりたくなかった。
やってはいけないはずなのだ。
自分はサイボーグであるが、人の型をしている。ということは、内蔵の配列も同じに違いない。
だとすれば、串刺しになっている場所は大動脈の近くではないだろうか。
現に先程からそこから漏れているとおぼしき液体が防護服を染めていっている。
とすれば、この串刺し本体自身が止血の役割を担っているのかもしれない。
そうであれば、これを抜いた瞬間、大出血となり、おそらく数分で意識を失うだろう。下手をすれば死ぬかもしれない。
だから、こうしてじっとしているしかなかった。
きっと009の姿がないことに気付いて、誰かが探しに来てくれるだろう。
ジョーは息をつくと、すぐ隣にいる敵を見た。
・・・お前は運が悪かったな。
倒すはずだった敵とはいえ、こんな結果になったことは不本意に違いない。
敵は、額から鉄パイプらしきものを生やし既に絶命していた。
ジョーは再び空を見た。
なんだか眠くなってきた。
きっと体力を温存するために、意識レベルをダウンさせるようプログラムされているのだろう。
・・・なんて、な。
そんなわけがない。
自分はこれから意識を失うのだ。
最悪の事態と言えなくもなかった。
・・・フランソワーズ。
今頃きっと心配しているだろう。
意識を失ったら、そのあと再び目覚めるのかどうかわからない。
もしかしたらこれが今生の別れなのかもしれない。
ひとりで、ひっそりと。
誰に看とられることもなく。
最後になるなら、ひとめ会いたかったなあ。
そして、「ばかっ」と思いきり罵られるのだ。
本気で心配されて叱られるのは嫌じゃなかった。
そんなフランソワーズにいま一度会いたかった。
でも。
ジョーは、自分を見つけるのはどうか彼女以外であるようにとそれだけを願った。
フランソワーズにこんな姿を見せたくはない。かっこ悪いし、何よりあまりにショッキングな光景だ。
串刺しになった009など見て気持ちのいいものではあるまい。
だから。
僕を見つけるのがどうかフランソワーズではありませんように。
薄れゆく意識のなかで、それだけを願っていた。