「月夜」
前にジョーが怒ったことがあった。 君は僕に愛の言葉を言ってくれないと責めるけれど、だったら君はどうなんだ? と。 ふだん、そんなことは話題にしないし言い争ったりもしないんだけど、その日はなんだか虫の居所がおかしかったらしい。 君は僕に何も言ってはいないのに、僕にはそれを求めるのかい?
そんなジョーが珍しくて、私はじっと彼を見ていた。 「あら、言ったじゃない。この前の夜」 ジョーはしばらく記憶を探り、 「嘘だ、言ってない」 …たぶん私はたっぷり一分くらい黙っていたと思う。 だってね。 ねえ、ジョーって日本人よね?夏目漱石って読まないの? 「…もう、知らないっ」 確かに私なりにアレンジしたからわかりにくかったかもしれないけど…でも、ちゃんと言ったもの。
私は今晩もジョーのそばにいる。 でも… 彼はまだ目を覚まさない。
ジョーが目覚めたら。 ちゃんと目が開いたら。 そうしたら、…
「君はそんなに月が好きなのか」
ねえ。 目覚めた第一声がそれ? もう。ジョーに風情なんて求めちゃだめね。
「そうね。あなたの次にね」
|