「新春初売り福袋」

 

 

 

「だからさ、フランソワーズ。そんなの買うなら同じ値段で欲しいものを選んで買えばいいじゃないか」

そのほうがよっぽど得だし正しい買い物だとジョーが言うのを右から左に聞き流し、フランソワーズは陳列されている福袋をじっと見つめた。

「え。もしかして、…視てるの」

それって反則と言いかけたジョーの鳩尾に無言で肘鉄を打ち込む。悶絶する彼をよそに、フランソワーズは吟味するように福袋を見つめ続けた。

「視るわけないでしょ、まったくもう。何が入っているかわからないから楽しいのに」

いつもの堅実なフランソワーズの言葉とは思えない。もしや偽者と真剣にジョーが疑い始めた頃、

「これにするわ」

やっと得物を決めたらしく、たくさんある福袋の中からひとつを選びレジに行ってしまった。
ジョーはその後ろ姿を見ながら、やれやれと息をついた。
新春初売り、福袋。
これがどんな魔力を放つのか知らないが、女子に猛威をふるっているのは明らかであった。
周りの買い物客で女子は殆んどがどこかの福袋を持っている。男子は持っていない。持っているのはどう見ても荷物持ち要員である。ジョーのように。

「しかし、わからないなあ…」

普段は無駄遣いするなとうるさく言うのに、どうして今日はこんなにも財布の紐が緩いのか。中身がなにかわからないものに金を出すなどただの無駄遣いだろうに。
お得だと言っているのは店側であり、実際には売れない商品を詰めているだけじゃないのかとジョーは思うのだった。

「なにがわからないの?」
「えっ、いや」

会計をすませ上機嫌のフランソワーズ。
あれこれ言って機嫌を損ねるのは本意ではない。

「別に…」
「そうお?」
「うん」
「ね、次はむこうのお店に行きましょ」

するりとジョーの腕に腕をからませ、次の店を目指す。どこになんの店があるのかジョーにはさっぱりだったが、フランソワーズには迷いがない。半ば連行される如く歩を進める。

「ねえ、ジョー」
「うん?」
「福が手軽に買えちゃうなんていいわよね」
「え?」

唐突になんだろう…とフランソワーズを見るが、その横顔に屈託はない。

「無駄遣いだと思ってるんでしょ?でもね、」

きっとどれかに幸せが入っているに違いないと思っちゃうのが女の子なのよ

「うーん…」

そうかなあ?

ジョーが唸るとフランソワーズはくすりと笑い、目的の店に着いたのかジョーの腕を解放し店内に消えた。


福袋のなかに幸せが入ってる?

そんなばかな。

そんなお手軽な幸せなんてあるもんか。
それとも、女子って本気で信じていたりするのだろうか?

…信じているのかもしれない。


「でもさあ、フランソワーズ」


そんな手軽な幸せなら、僕に言ったほうが確実だし早いと思うんだけど。
きっと、男子はみんなそう思っていると思うよ。少なくともここにいる奴らは。

 



 

 

店内からジョーの様子を窺い、フランソワーズはうふふと小さく笑った。

そう、福袋に幸せが入ってるかもなんて思ってはいない。
これはただ、欲しいから買っているだけ。

でもきっと、ジョーのことだから


フランソワーズを幸せにするのは僕だ


なんて、決意を新たにしているだろう。


「新年の抱負として、がんばって」


だって、私を幸せにしようとしてくれるジョーがそばにいるのが、私には幸せなのだから。

 

(2015/1月・拍手ページ初出)

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