「一言が気になって」
〜お題もの・恋にありがちな20の出来事より〜
「僕が好きなのは」 私の隣には兄・ジャンがいて、涼しい顔でジョーの言葉を復唱している。 そう。これは試練なのだ。 *** ジョーがパリに来て、久しぶりに会えた。 お前の好きなのは、フランソワーズじゃなくてマフラーなんじゃないのかと。 ジョーは慌てて否定した。 「だったら、お前が好きなのは誰なのか言ってみろ」 と。 目で助けを求めるジョーを私はきっぱりと無視した。 ええと、ちょっと待ってね。 「ウケるなあ。それでいいよ。面白いヤツだなぁ、やっぱり」 背を向けた私にジョーの声が絡み付く。 「そうじゃないよ、フランソワーズ。だから僕が好きなのは、」 好きなのは・・・
ジョーの顔が赤い。
でも、健気にも前髪の奥に隠れようとせず頑張ってくれている。
そうよ、ジョー。あともう一言。
私は知らず両手を握りしめていた。
「好きなのは?」
ジョーは、ジャンの質問に答えなければならない。
そして連れだって帰る途中で事件に巻き込まれたのだけど、それも過ぎて今は三人でお茶を飲んでいるところだった。事の顛末を楽しくジャンに語って聞かせているところだったのだけど。
どちらがこちら側のフランソワーズなのか、マフラーでわかったというくだりをジョーが話しているとき、ジャンが言ったのだ。
そんな彼に畳み掛けるように兄は更に言ったのだ。
だって私も聞きたいもの。ジョーの気持ちを。
「・・・好きなのは、」
ジョーの目が私を見て、兄を見た。
「ほら、早く言え」
もうっ、お兄ちゃんたら!ジョーをいじめて楽しんでる。
それをしていいのは私だけなんですからね。
「あ、はいっ」
ジョーが再び私を見る。
私は、ジョー、頑張ってと目に力を込めた。
「・・・僕が好きなのは、君のお兄さんの」
君のお兄さん・・・つまり、ジャンのことね。
ええと、ジャンの、・・・?
「・・・妹」
・・・・・・んっ?
ジョーは頬を染めて下を向いてしまった。
私のお兄さんはジャン。で、ジャンの妹、は・・・
「もうっ、なによそれ!」
隣で兄が大笑いしている。
ぜんっぜん、面白くないっ。
どうして妙に遠回りな言い方をするのよ、ジョーのばか。
「そう。わかったわ。やっぱりジョーは、私より、私のマフラーが気に入ってるのよね」
「えっ、いや、そうじゃなく・・・」
「知りません」