「お客様、何かお探しでしょうか?」
はっと我に返る。
ショーケースの向こう側には、にこにこと営業スマイルを浮かべた女店員が立っていた。
「よろしかったらお出ししますので」
「あ、いえ」
一瞬、後ずさりしかけ、けれども何とか踏みとどまる。
「・・・あの、カチューシャを・・・」
喉が乾いてしまっていて、掠れた声を出すのがやっとだった。
「カチューシャですね?どちらをお出ししましょうか?」
更なる難問。
「え、えぇと・・・よくわからないので・・・」
小さくぼそぼそ言うと、心得顔でこう言った。
「では、こちらとこちらの新作をお出ししますので、どうぞお手にとって御覧くださいませ」
目の前にいくつものカチューシャが並べられる。
華奢な造りの、淡い色合いのもの。
バラがついていたり、リボンがついていたり。
・・・これって、プラスチックだよな?
かがんでじいっと覗き込んでいたら「どうぞお手にとられては」と勧められてしまう。
そんな恐ろしい事ができるもんか。うっかり壊したらどうするんだ。
「贈りものですか?」
「あ、はい」
「お相手のお好みはおわかりでしょうか?」
僕が迷っているととったのか、アドバイスをくれようとしている。
それはわかっているんだけど。
・・・好み?
フランソワーズの好み、って・・・
迂闊だった。
ええと。
記憶を手繰り寄せる。
カチューシャ。・・・どんなのをしてたっけ?
ピンク色のが多かったような・・・そうでもないような・・・・。
・・・・・。
無言でこちらの様子を窺っている店員の視線を痛いほど感じる。
何か言わなければ。
全身に汗が滲んでくる。戦っている時だってこんなことはないのに。
こんな窮地に陥るのは初めてだった。
「お客様・・・?」
「あの。ちょっとわからないので」
何とか一言返す。
すると、こっくり頷いた店員は更に言葉を重ねた。
「こちらは人気がありますよ。贈り物になさる方も多いですし」
そう言って差し出されたのは、淡いブルーのカチューシャ。
ブルー。
青。
・・・フランソワーズは青いのをつけてたことは・・・なかったような気がする。
だけど、ここまで言われたら何か買わないとこの店を出られないのだろうか。
なんだかそんな雰囲気が漂ってくる。
たまたま通りかかり、ふらりと入ってしまっただけの店なのに。
どうしたらいいんだ。