結局、カタログを手に店を後にする事ができた。
延々と何も決められない僕を見かねて、店員がカタログを渡してくれたのだった。
これで無罪放免、開放された。
それとも、ちょっとはこれを見て勉強してきなさいということだろうか。

時計を見ると一時間が過ぎていた。
そんなにあの店に居たのかと思うと軽い眩暈に襲われる。
そもそも僕は、本屋に雑誌を買いに来たはずだった。
だけど何だか疲れてしまい、もはやどうでもよくなってしまっていた。

 

 

「あら。ジョー、早かったのね」

リビングに入ると、フランソワーズが驚いて読んでいた本から顔を上げた。
「うん。ちょっとね」
「欲しかったのはあった?」
「いや・・・」
実は本屋には行ってない。とは言えず、そのままキッチンに向かう。
カタログは無造作にテーブルの上に置いて。

「・・・これ、どうしたの?」

キッチンからペットボトルを持ってリビングに戻ると、フランソワーズがカタログをぱらぱらめくっていた。
「アレクサンドル・パリのじゃない。髪飾り製品で有名なのよ」
「へー」
それは知らなかった。
「・・・ここに行ってたの?」
「ん。・・・まーね」
「そう。・・・わー、これ素敵ね。・・・でも高いわ。バレッタが・・・2万円?」
バレッタって何だ?
2万円って高いのか?・・・そもそも相場がわからないから、コメントのしようがない。
「これ、見ててもいい?」
「どうぞ」
ソファに座り、膝の上に広げている。
その隣に座り、一緒に覗き込む。
「これも素敵ねぇ・・・」
そう指さしたのは、さっき店員に勧められたブルーのカチューシャ。
「フランソワーズもそういうの好きなんだ?」
「ええ。だって綺麗だもの」
「でも青いのってあんまりしてないよね?」
そう言うと、ぱっと顔を上げた。
一瞬、複雑な表情を浮かべ、でもすぐに笑顔になる。
「そうね。昔、持ってたわ」
昔。
僕は見た事がない。
「今はしてないけど」

彼女の頭にあるのは、あの日割れたのとほぼ同じもの。
いくつも持っているから大丈夫だと笑って言っていた。
だけど、あれは僕のミスだ。
危うく君に怪我をさせてしまうところだった。もしかしたら、怪我どころではなかったかもしれない。

本屋に向かいながら、そんなことを思い出していたせいか、ふらりと店に入ってしまった。
フランソワーズのカチューシャ。