ジョーが宝飾品のお店にひとりで行ったなんて驚いた。
てっきり、本屋に行ったものだとばかり思っていたし。

だから、カタログを見た時は本当に驚いた。

だって、「髪飾り製品」では有名なお店だったから。
お花やリボンをあしらったものが多くて女性に人気のお店。
値段は少し高いけれど、そのぶん造りがしっかりしてて簡単に破損したりはしない。
私も大好きなお店だけど、いつも前を通り過ぎるばかりで入ったことはなかった。

だけど、ジョーは行ったんだ。
・・・何のために?

カタログに目を落としているふりをしながら、隣の彼の横顔をそっと窺う。
別にいつもと変わった様子はない。
でも・・・。

ページをめくりながら、さりげなく訊いてみた。
「ねぇ。どうしてこのお店に行ったの?」
「別に。・・・なんとなく」
「誰かにプレゼントするの?」

何気ない風を装って更に訊いてみる。
別にどうでもいいけれど、という雰囲気で無造作に。

「ん・・・まぁね」
「・・・そう。でも、まだ買ってないのね」
確か、帰ってきたときカタログしか持ってなかったはず。
「うーん。難しいよね。選ぶのって」
ジョーの視線は手元のページを見つめたまま。
こちらは見ない。
「そうね」
同意しつつも、気持ちは上の空だった。
だって、どうみたって「ふらりと寄る」タイプのお店ではないし。
特に男性ひとりで入るのは、女性への贈り物を買うためだと誰が見たってわかる。髪飾りのお店なんだもの。
そんなお店に行って、しかも『選ぶのが難しい』なんて言う。
どんなのが似合うのか、選ぶのにも悩むようなひとが贈る相手。
ひょい、と適当に見繕って・・・というのが似合わない女性。念入りに、きちんと吟味したものしか駄目。
だから、カタログまで貰って帰ってきた。
そんな相手っていったいどんなひと?
誰?
私の、知ってるひと?

「そうだ、フランソワーズ、君、一緒に」
突然、こちらを向いてとんでもないことを言うジョー。
いいこと思いついた、って顔をして。
「行かないわ」
続く彼のセリフを遮るように答えていた。
だって、そんなの聞きたくない。

「えっ」
「忙しいのよ。することがたくさんあって」
ぱっとソファから立ち上がる。
「洗濯物、とりこまなくちゃ。それからお夕飯の支度もそろそろしないといけないし」
ああ忙しいと言いながらリビングを後にする。
ジョーが何を言っても聞こえないように。

だって。
彼が言いたい事はわかっている。
私に、一緒に行って、贈り物を選ぶのを手伝って欲しいのでしょう?
そう言おうとしたのでしょう?
・・・冗談じゃない。
どうして彼の誰かへのプレゼントを選ぶのに私が手伝わなくちゃいけないの?

・・・ジョーのばか。

本屋に行ってくるなんて嘘までついたくせに、しっかりカタログを持って帰ってくるなんて、なんて間抜けなの。
私がわからないと思っているの?
それとも、わかってもどうでもいいって思ったの?

それに、彼はすっかり忘れてしまっていた。
なぜ私がいつも同じカチューシャしかしないのか。

私にはとても大事なことだったのに。
ずっとずっと覚えていて・・・思い出すたびにふわんと心が温かくなって幸せな気持ちになっていたのに。

ジョーは覚えていなかった。
全然。
少しも。

ジョーのばか。