もし、僕たちが離れる事になっても、何も心配することはない。

だって僕たちは――いっとき離れたとしても、必ず未来のどこかで再び出会えるのだから。

 

もし、そのときお互いがお互いを忘れていたらどうするのか、って?
心配性だなぁ、フランソワーズは。

そんなの、簡単だよ。

だって僕は――僕たちは、出会えば必ずまた好きになる。

きみは違うの?

 

それでも彼女は不安そうで、中々納得してくれなかった。

「大丈夫。怖くないよ。必ず会えるって決まっているんだから」

離れても、また出会えばいい。
そうすれば、お互いにまた好きになる。それだけのことなのだから。

もう会えないかもしれないなんて、そんなこと考える必要もない。

大丈夫。

だいじょうぶだよ、フランソワーズ。

 

僕は何度も何度も繰り返した。
彼女を抱きしめて、キスとキスの間に言葉を紡いだ。

「だから、平気だよ。――フランソワーズ」

 

 

***

 

 

我ながら、よく言ったものだ――と、思う。

あの日から、いったいどのくらいの時間が経ったのだろう。
この狂った時間軸に支配されたこちらの世界に取り込まれてから、僕は「時間」の感覚を失った。
何分経ったのか。
何日経ったのか。
こちら側に来てから、数時間経ったのか数日経ったのか、あるいは数ヶ月――もしくは、数年が経っているのかもしれなかった。

・・・全く。
戦闘中に僕だけこちらに飛ばされてしまい、他のみんなは大層難儀している事だろう。
――早く戻らなければ。
そう思いつつも、脱出するにはどうやら――こちらと、むこうの時間軸が一致する一瞬が勝負のようだった。

何度も試してみた。
けれど、その度に僕は傷を負っていった。
時間の歪みは、ただ跳び越えるだけのものではなくて――やはり、それ相応の手順が必要らしかった。
擦り切れた防護服に身を包み、満身創痍で僕は必死に考えた。
そして、「時間軸が一致する一瞬」が必要だという結論に達した。
しかし。
問題は、その一瞬がいつ訪れるのかということだった。
何しろこちらは――唐突に時代が変わってゆくから。季節や年代もまるで無関係に流れてゆく時間。それは、時には停滞し、時には渦を巻き・・・そして消失した。
未来と過去が交錯し、現在という概念すら奪われてしまう空間。
僕は、自分が正気を保っていることが不思議だった。
もしかしたら、永遠にここから出られないのかもしれないのに。
誰にも会えず、ひとりぼっちで。
以前の僕なら、耐えられなかっただろう。
でも、いまの僕は・・・不思議と穏やかだった。
勿論、時間軸が一致する瞬間をただひたすら待つことしかできないのだから、もどかしい事この上ないけれど。
それでも。
僕は平静だった。

 

 

***

 

 

『――わかったわ。じゃあ、泣かないでいるから、必ず私を見つけてね?必ず会えるなら・・・その日を楽しみにして生きていけるわ、きっと』

 

『でも、もし万が一、あなたが私をわからなくなっていたら・・・』

 

『・・・その時は、私があなたを見つけてあげる。だから、心配しないで。もしあなたが全ての記憶を失っていても、私が全部憶えているから』

 

『見つけられなくてもいい。忘れてもいいの。心配しないで。私がちゃんと――見つけてあげる』

 

 

***

 

 

僕は何も心配しなくていい。

だって、フランソワーズが必ず見つけてくれるから。

でも

 

僕はきみを忘れたりなんてしない。