Chaka様より頂いたお話です。

 

 「夏」

 

 

目の前。 ジョーが困ったような顔をした。

フランソワーズはそんな困ることを言ったかしらと思った。

 

「花火大会行かない?」

そう言っただけなのに。

 

ギルモア研究所のある市内で、今日、花火大会がある。
今までいろいろ有って行くことが出来なかったけど、今年は行けそうだから。

日本の花火は世界一。

そう言われてるから、フランソワーズは一度は見てみたかった。
おまけに市制70周年とかで盛り上がってるらしいので、いつもより盛大に行われるらしい。

どうして行きたくないの?

そう言うと、ジョーはぼそりと人が多いだろ?と言った。
人混みが嫌いらしい。

 

「……遠くから見るのじゃ駄目なのかい?」

「近くで見てみたいの」

延々と続く押し問答。
フランソワーズは焦れた。

「……もう良いわ! そんなに行きたくないなら、あたし一人で行ってくる!」

ハンドバッグを掴むとフランソワーズはその勢いのまま、研究所を飛び出した。ちょうど来たバスに飛び乗る。
座席に座って落ち着いて、少し気持ちも落ち着いた。

ジョーのばか。

じわりと目頭が熱くなった。

駄目よ。 ジョーが行きたくないのは人混みが嫌いなだけであって、あたしと出かけるのが嫌な訳じゃないんだから。

自分に言い聞かせる。
それでも何となく寂しさを感じて、もう一度ジョーのばかと呟いた。

 

 

 

 

バスを降りて、歩いて花火大会の会場に向かう間、人混みの中、何故かカップルばかり目についた。
皆楽しそうに見えて、フランソワーズは落ち込みそうになった。
足が重く感じた。
それでも何とか、とぼとぼと花火大会の会場へ向かった。

と。 いきなり肩を叩かれた。

驚いて、フランソワーズがばっと振り返ると。 そこにはジョーが居た。

思わず、フランソワーズの口がぽっかんと開いた。
しばし言葉を失って。

「……どうやって来たの?」

どこかとんちんかんなセリフがフランソワーズの口から滑り降りた。

「バスで」

ぽつりとジョーが呟いた。

車で来なかったの?と聞くと、駐車場が無いだろうと思ったからとこれもぽつりと呟いた。

地上最速のジョーがバスで。
想像すると何とも言えなかった。
しかも今日は花火大会でジョーの乗ったバスも混んでたに違いない。
人混みが嫌いだと言ってたのに、黙って満員のバスに揺られてきた。

……あたしを追って来てくれたの?

そんな言葉をフランソワーズは思わず呑み込んだ。
代わりに。

「……来るなら、最初っから来ればいいのに」

そう言うと。

「うん……」

と言ったきり、ジョーは黙ってしまった。

じっとしてても埒が無いので、二人は黙って花火大会の会場へ向かった。