「彼女の誕生日」

 

 

 

フランソワーズの誕生日は一緒に過ごすことに決めている。

と、ひとことで言っても多忙なジョーにはなかなか難しいことであった。
毎年毎年、その日にあわせてスケジュールを調整する。
それは大変ではあるけれども、実は楽しい作業であったりもするのだけど。


「えっ……予定がある?」


そう、一緒に過ごすというのはジョーが勝手に決めていることであって、フランソワーズはそういうわけではない。
だからこういうことが多々起こる。

「え、だ、そ」

え、だってその日は誕生日じゃないか――とさえ、ショックで喉が詰まってうまく言えない。
そんなジョーに気付かないのか気付いても放っておいているのか、電話のむこうのフランソワーズは至って通常運転だ。

「だから別の日がいいわ」
「や、で、そ」

いやでもそれでは意味がない――も、言えないジョーだった。

「だって、お誕生日だもの私。お誕生日会を開いてくれるっていうから」
「む――」

これは喉が詰まっているのではなく唸り声。
お誕生日会。
そんな幼稚園児のような響きはなにやらうらやましいが、いったい開催するのはどこのどんな関係の人物か。

「ジョーは忘れていたかもしれないけど、みんなは違うの。随分前からその日は空けておいてねって」
「い」

いやちょっと待て。忘れてない。忘れてないぞ。
とんでもない冤罪である。が、口を挟む余地がない。フランソワーズは通常運転だからだ。

「だから日本には行かないわよ?」
「誰だ」

やっと声が出た。

「何よ誰って」
「たんじょう…」
「お誕生日会?バレエのお友達よ」
「ふうん……」
「なあに?怖い声。安心して。男のひとはいないから」
「嘘だね」
「ほんとうよ?」
「きみの誕生日会に参加しない野郎がいるわけがない」
「ジョーったら心配しすぎ。それに女子会だもの、男性は出入り禁止なの」

本当だろうか。女子会といっても後半に男子が参加するというのはよく聞く話だった。

――うん?だったら。

「わかった。で、どこでやるんだい?家から近いのか」
「なあに?ジョーったら心配しすぎよ」
「女子会なんて遅くなるだろ。僕は迎えに行けないんだし。パリだからな」
「大丈夫よ、近いわ。場所はね、」

そうしてまんまと住所を聞き出したジョーは、続く電話の声を上の空で聞きながらネットで飛行機の空席をチェックし始めた。
フランソワーズがどう思っているのか知らないが、彼女の誕生日は一緒に過ごすことに決めているジョーであった。

 


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