「勝利の女神をお迎えに」
「――誕生日?ああ、何かやってくれるみたいだな。うん、スタッフがそう言っていたと思う。――え?無理無理。ヨーロッパシリーズ真っ最中だぜ?みんな地元を回るから、ピリピリしてるんだ。だからずっと詰めっ放し。僕だってそうさ。やっぱりアジアで優勝するのとヨーロッパで優勝するのは意味が違う。勿論、どちらも優勝には違いないけどね。――うん。しばらく日本で調整して、そして向こうに・・・え?いつ行くかなんてそんなのわからないよ。状況次第ってところだね」 *** ジョーは電話を切った後、小さくため息をついた。 ――どうせ、本当にその日が誕生日なのかどうかわからないしな。 自嘲気味に心の中で言った。 *** 「おい、ジョー。明日は誕生日だろ。いいから、休めよ」 スタッフが口々に言う。 「ほら。勝利の女神とデートでもしてさ」 そんな声の中、憮然とした表情を崩さないジョーだったが。 「まさかお前、俺たちがハッピーバースデーでも歌うと思ったか?残念ながら、そんな予定はねーよ」 「――そうするよ」 あっさり折れた。
誕生日を祝ってくれるというのは有り難い話だが、自分自身、どうでもいいといえばどうでもいい事なのだ。
フランソワーズの誕生日は彼の中で重要だったけれど、自分の方はどうでもいい。
「何なら、連れて来たっていいぞ」
「そうだ。だから、安心して行ってこい」
誕生日などどうでもいいと思いながらも、電話でのフランソワーズのどこかガッカリした響きの声が頭から離れなかったのだ。