電話を切った後、フランソワーズはしばし考え込んだ。
一体どうしたものだろう。

ジョーの誕生日。

彼は興味がないらしく、毎年のらりくらりとかわして逃げるようにその日を過ごす。
その理由を訊いた事はなかったので、フランソワーズとしては推測するしかないのだが、いかんせん、あまり楽しいものではなかった。どうしたって想像力過多になってしまう。
おそらくジョーは、そんなに深く考えているわけではないだろうに、どうしても彼の出自に思いを馳せてしまう。ある意味、邪推ともいえる想像がフランソワーズは嫌だった。だから、ジョーの誕生日に関しては、あまり考えないようにしていた。
しかし。
今年は何だかそういう気分ではないのだ。放っておいてくれと暗に言われても構いたくなってしまう。

――行ってみようか。日本に。

仕事で缶詰状態の彼の元に行った事はなかった。やはり、邪魔してしまうのではないかという思いが強かったし、また、ジョーも積極的に「大丈夫だから来てよ」など言う事もなかった。

しかし。

今年は何だかとても気になって、ジョーを放っておく気になれない。今年に限って何故、とは思うが、そう感じてしまうのは事実なのだから仕方がない。

――ちょっと顔を見るぐらいなら。

いいわよね・・・?と、自分で納得する。
事前に言うと来るなと言われそうだから、黙って行く。
ただ、本質的には「来ちゃった」と彼の家のピンポンを鳴らす恋人というのはやりたくないもののひとつであったから、どうしたものか少し悩んだ。
このまま実行すれば、限りなくそれに近いからだ。
他人の迷惑を考えず自分の好き勝手に行動することが、いじらしくて可愛いとは思わない。それは、相手の都合を考えないで自分の気持ちしか大事にしないただのワガママだからだ。だから、そうはなりたくなかった。
だったら、どうすれば?

ジョーはサーキットにいるはずだ。だったら、――そう、パドックには行かず、コースを覗くくらいだったら。
あくまでも「いちファン」として。
そうだ。自分がここまで来たということが彼にわからなければいいのではないだろうか。

・・・それって少し寂しくない?交通費かけて行くんだよ?と、頭の隅で誰かが言ったがきっぱり無視する。
顔を見たいのは自分の勝手なワガママであるから、ジョーを煩わせることは無い。顔だけ見て帰ってくればいい。
ジョーを構いたいという気持ちもあるが、やはりそれは迷惑だろうからと我慢した。
そこまでワガママを貫くわけにはいかなかった。