ジョーは飛行機を全てキャンセルして――全く、ガセネタだったらどうしてくれよう――大急ぎでサーキットに向かった。
まさか性質の悪い冗談ではないだろう。
いくらスタッフが悪ふざけ好きといっても、ジョーにこんな嘘を吐くメリットなぞないのだから。

しかも、勝利の女神が来てる、だって?

勝利の女神。つまり、フランソワーズがここ日本の、しかもサーキットに現れたということだ。
――彼女はパリにいるはずではなかったか。
やはり、にわかには信じ難い情報だった。パリ行きの便をキャンセルしてまで戻って、実は冗談でした、では納得がいかない。オフをくれると言っておいて呼び戻すにしても、もう少し別の手段があるだろう。

ジョーの心中は複雑だった。
途中、何度かフランソワーズに電話をしてみたが繋がらなかった。

やはり――性質の悪い冗談、か?

 

 

***

 

 

息せき切って戻ってみると、スタッフは彼の顔を見るなり無言で休憩室を指差した。
彼らに問い質すより、自分の目で判断した方が早いと思い、ジョーは休憩室のドアを勢い良く開けた。

そこには、ソファにもたれて眠っている様子の金髪の女性がひとり、いた。

ジョーはそっとドアを閉めるとソファに近付き、改めてその女性をじっと見つめた。
顔にかかっている髪を耳にかけてやると、白い頬が目に入った。うっすらと桃色に染まっている。
閉じられた瞼。――眠っているのだろうか。

ジョーは隣に腰掛けると大きく息をついた。

・・・全く。いったい、何故ここにいる?

日本に来るなんてひとことだって聞いていない。知っていたら、自分はここで待っていたのに、あやうくすれ違うところだった。

「・・・フランソワーズ」

小さく言って顔を覗きこむ。が、どうやらすっかり眠っているようだった。

ジョーは口元に笑みを浮かべると、上着を脱いでソファに身を預けた。
理由はわからないが、ともかく彼女はここにいる。
とりあえずはそれで良かった。