ここで待っていてください――と言われ、通されたのは小さな部屋だった。 スタッフが気を遣って淹れてくれたコーヒーを前にフランソワーズは考えた。 パリへ――何の用事だろう。 首を傾げるフランソワーズに、スタッフはケンカでもしたんですかと声を掛けた。してませんと答えると、だったらアルヌールさんに会う以外にジョーがパリへ行く理由なんてありませんよと言われた。 ――そうだろうか。 それなら嬉しいけれど、でもきっと違う。 帰りますと言うと、ジョーは今こっちに向かっていますからと押し止められた。 もうすぐジョーがやって来ると思っても、何故か嬉しさは湧いてこなかった。 こんなつもりじゃなかったのに。 彼は用事があってパリへ行こうとしていたのに、私がここに来たと知って戻って来なければならなくなった。 知らずため息をついた。 途中で、何か差し入れでもと思ったのに、気付けば手ぶらだった。一体、自分は何をしに来たのか。 こんなの――「来ちゃった」と言って恋人の家へ走る無神経なヒロインと同じではないか。 今さら電話するのも躊躇われたが、ここに戻って来なくていいと伝えようと携帯電話の電源を入れジョーのナンバーを押す。が、一向に電話の繋がる気配はなかった。数回試して諦める。 ともかく、ジョーにはきちんとわけを言って謝らなくては。 わけと言えるほどの理由はないが、それでもただ「ごめんなさい」と言うだけではきっと足りないだろう。
|