不意に意識が戻った。 「・・・ジョー」 彼を待っている間に眠ってしまったのだろう。何しろ、昨夜は殆ど寝ていないのだ。飛行機の中でもなかなか寝付けず、気付いたら日本に着いていた。そして、そのまま――ここに来たのだ。 いつの間にジョーがここに来たのか、全く覚えが無い。 そうっと身体を起こす。 「――捕まえた」 寝たフリなんてひどいわと言うと、鼻の頭にちゅっとキスされた。 「・・・全く。あやうくすれ違いになるところだった」 そうして頬にキス。 「すれ違い、って・・・」 ――そうだった。ジョーに謝らなくては。 「あの。ごめんなさい、突然来てしまって」 そうしてフランソワーズの髪をかきあげ、こめかみにもキス。 「・・・用事があったんでしょう?」 いっしゅん、褐色の瞳が覗き込む。そのまっすぐな視線にフランソワーズの心臓は跳ねる。 「パリに行く用事」 そうして笑むと、耳たぶにキス。 「ごめんなさい。予定、変更させてしまって」 フランソワーズはジョーの胸をてのひらで押して、身体を僅かに離した。 「だって――何?」 ジョーが優しく問う。が、フランソワーズは沈黙の海に沈みこむ。 ――だって。邪魔したのは確かだもの。それに・・・何しに来たのって言われたら、とてもじゃないけど答えられない。相手の迷惑を顧みず突然やって来る迷惑な恋人。もしくは、会えば相手も少しは喜んでくれるだろうと驕った考え方をする身勝手な人間。それが私だと認めたくは無い。 「――フランソワーズ」 ジョーがフランソワーズの顎に手をかけて自分の方を向かせる。 「僕が何しにパリに行くつもりだったと思う?」 困ったような蒼い瞳を見て、ジョーはふっと笑うとフランソワーズの顎から手を離した。 「あーあ。カッコ良く迎えに行くつもりだったのになあ!」 ちらり、と座ったままのフランソワーズを見る。 「――あのさ。僕が誰かを迎えに行く邪魔をしてしまった・・・とか思ってない?」 そう言うとジョーはポケットに両手をつっこみ、立ったまま身を屈めてフランソワーズの顔を至近距離からじっと見つめた。 「――全く、どうしてじっとしててくれないんだろうなあ。普通、お姫様っていうのは王子を待っているものじゃないのか?」
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