今でもあの時のことを思い出すと切なくなる。

有事の場合でないとジョーには会えないと思っていたあの頃。
会ってはいけないのだと言い聞かせていたあの時。

そのくせ、ジョーの影が見えただけでも嬉しくて弾んでしまう気持ちを持て余していた。
そんな自分が憐れだったから、必死で彼への思いを押し殺していた。
好きな気持ちに気付かないふり。そんな気持ちは持ってないわ、って演技をしていた。
だって、私はサイボーグだから。
人間だった頃のように恋をしてはいけないと思っていた。
それに、私とジョーは仲間だったから。
色恋沙汰をしているような、そんな悠長な仲間ではないし、集まる時はそれこそそんな場合じゃない。
なのに好きだなんて、たるんでいるとかふざけているとか、あるいは――あまりにお手軽すぎる、と思われそうだった。
恋なんてしている場合じゃない。
そんな場合じゃないのだ。

 

でも。

ひとめ見たら、やっぱり好きで――そんな自分の思いが可哀想だった。

絶対に実らない恋。通じることのない思い。
そんな思いを抱いてしまった自分が憐れに思えてならなかった。

 

 

 

 

「・・・ふうん。なるほどね」


何年か経って、やっと私はあの時の事をジョーに話すことができていた。
とはいえ、詳しい話をしたわけじゃない。
ただ、メンテナンスの時期がバレンタインデーに近かったから、帰りにジョーの家に寄ったことがあるのよというそれだけの話。
でもジョーはいなかったから、チョコレートは全部ひとりで食べちゃったわ。そう軽い感じで話した。

だから、ジョーがしみじみと頷いたのには驚いた。

「なるほどね、って何が?」
「うん?」

ジョーは目の前にあるチョコレートをつまんで口に入れた。

「――内緒」
「まあ。何よそれ」
「うん?・・・いいんだ、内緒っていったら内緒さ」

いたずらっぽく笑って、ジョーは私の鼻をつついた。

「ん、もう・・・変なジョー」

 

でも、いい。
今はこうして一緒にいられるのだから。

有事でなくても。
平和なときでも。

そばにいてもいい。
恋をしてもいい。

ジョーを好きな気持ちを諦めなくてもいい。

 

私もチョコレートをひとつぶ口に入れた。
あの時と同じチョコレート。


甘くてとても美味しかった。