「愛されすぎるとケンカになる?」

 

 

日本グランプリを目前に控え、ハリケーン・ジョーこと島村ジョーは日本で調整を行っていた。

それはもちろんセッティング等もあるが、自国開催のレースということで数々のイベントが組まれており、それをこなすためと言っても過言ではなかった。スポンサーによるショウに始まり、公式行事に参加したり、ファンの集いなどなど。

だからゆっくりする暇もなく、フランソワーズもせっかく日本に来ているというのに会う時間が捻出できずにいた。
そうそう加速装置を使うわけにもいかない。
それを使ってフランソワーズに会いにゆくことは容易いことであったが、何しろ当のフランソワーズが使用を許してくれない。色々あって、機嫌が悪いのだ。加速装置を私用で使ったら絶交と言い渡されている。
特に誓約書を書いたわけではないから、もし破ったとしてもどうということはないだろう。
が、フランソワーズが口をきいてくれなくなることもまた確実だった。そういうところは厳しいのだ。

だからジョーは不本意ながら、彼女と会えない日々に甘んじている。
同じ国にいながらなんという仕打ちだろうと思いながら。

 

今日もひとり寂しく帰宅したジョーは、せめてフランソワーズがここで待っていてくれたらなあと思い、深い溜め息をついた。
ジョーが常時居るならともかく、一人にしておくのは危ないと誰あろうジョー本人が主張し、彼女はギルモア邸にいるのである。つまりそれで今、フランソワーズの機嫌が悪いのだった。

曰く、

「どんな危ないことがあるっていうの!?治安のいい日本なのよ!?」

ということである。
が、何を言ってもジョーが折れなかったために話はあらぬ方向へ進んでしまった。

「ははん。わかったわ。そうよね、いつ『日本での彼女』が訪ねてくるかわからないのに、私がいたら困るわよね?」
「なんだよ、それ」
「だってそうでしょ!?何かまずい事があるから、私を追い払うんでしょ?」
「そうじゃないよ、僕はただ君のことが心配で」
「だから、その心配は別の心配でしょう?」
「フランソワーズ。怒るよ」
「怒れば?」

対峙する蒼い瞳と褐色の瞳。

「・・・とにかく、駄目だ。君が何て思おうが、ギルモア邸に居てもらう」


それっきり、口をきいていない。電話はもちろん、メールも一向に音沙汰が無い。
これじゃあ日本とフランスに分かれているときより酷いじゃないかとジョーは腐った。

 

ジョーはリビングのソファに腰かけると再び溜め息をついた。

フランソワーズはいま何をしているのだろう?もう・・・寝ただろうか。