「…春だから」

 

 

特に理由があったわけではない。

例えば、はぐれないようにとか、足場が悪いからとか、探せばいくらでも理由になる事柄はある。
でも今はそのどれとも違っていて、だからこそ僕は少しくすぐったいような気持ちになっていた。


心が微かに浮きたつような落ち着かない気分でありながら、嬉しくて恥ずかしくて、でも実は楽しい。

わくわくするような、何か楽しいことが待っていそうな。

そんな気持ち。


隣のフランソワーズはどうなんだろうと気になって、そうっと様子を窺った。


目が合った。


「なあに?ジョー」

「いや、別に」


だって、久しぶりなんだ。

手を繋いで歩くのって。


いつからか、僕たちは手を繋ぐより肩を抱くとか腕を組むほうが多くなってしまっていた。
(もちろん、その原因は僕にあるのだろうけれど)

だからというわけではなく、ふと手を繋いでみたくなった。

 

…春だからかな。

 

暖かな陽射しのなかで、フランソワーズを愛でながら歩く。

 

繋いだ手が温かくて、僕はいつもより幸せだった。

 

 

 

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