「心にもないことを言った」
〜お題もの「恋にありがちな20の出来事」より〜
「好きさ。好きに決まっているだろう!」
さあどうだと僕は蒼い瞳を見つめた。
「・・・もう、知らないっ」
対するフランソワーズは冷たく言い放ち、僕に背を向けた。
そしてそのまま部屋を出ていった。
いったい、何なんだ。
何が言いたいんだ。
売り言葉に買い言葉。
確かにそれはそうだったのだけど。
***
事の発端はスポーツ新聞だった。
無造作に投げ出していた僕も悪いのだろうけど、ともかく一面を飾っていたのは僕自身だった。いわゆる熱愛発覚というありがちなもの。
相手は売りだし中のタレントで、僕とは数回顔を会わせただけの関係だ。それも仕事絡みで。
売名行為に過ぎないとちょっと考えればわかりそうなものなのに、フランソワーズはしつこく追及した。
僕が否定しても、火のないところに煙はたたないとかなんとか。
あんまりききわけがないし、そんなに僕は信用されてないのかと悲しくなって、なんだかどうでもよくなった。
だからフランソワーズが、本当はこのひとのほうが好きなんでしょうと言った時、否定しなかった。
おそらくフランソワーズは僕がとことん否定することを期待していたのだろう。そして僕の気持ちを確かめようとした。
けれども僕は、彼女の気持ちは手にとるようにわかるのに、わざと期待に応えなかった。
まったく、どうしてこうなってしまうんだろう。
僕はただ、フランソワーズにいつでも信じていて欲しいだけなのに。
やっぱり遠距離恋愛は難しいのだろうか。
鬱々とした気持ちで部屋を出た。
とにかくフランソワーズを探さなくては。
・・・でも。
彼女を探し出して、僕はいったい何と言うつもりなんだろう?
***
「あっ、ジョー」
フランソワーズはすぐに見付かった。
エントランスの前の花壇に腰かけていたのだ。肩を落として小さくなって。
そして僕の姿を認めると立ち上がった。
「・・・フランソワーズ」
「あの、・・・ごめんなさい。ジョー。私、酷い事を言ったわ」
――あなたはこのひとのほうが好きなんでしょう?
「そんなこと、思ってなんかいないのに。ほんとよ?」
――好きさ。好きに決まっているだろう!
「うん。わかってたよ。僕のほうこそごめん」
そうして僕はフランソワーズを抱き締めた。
本当に、どうして僕たちはこうなんだろう。
心にもない事を言って、お互いを傷付ける。
そして自身をも深く傷付けて。
もっと一緒にいたいと、一緒の時間を増やしたいと素直に言えない。
言ったらお互いを縛ってしまって、きっといつか窮屈になる。
それがわかっているからだろうか。
そんな風に終わりたくない。
終わらせたくない。
だから、僕たちは
お互いに心にもない事を言う。
でもフランソワーズ。
時々僕は思うんだ。
本当に窮屈になるのかどうか、試してみるのもいいんじゃないかなって。
・・・どうかな?