|   私、このひとのことが好きなのかもしれない。   唐突に、そう思った。それはむしろ、今まで気付かなかったことが不思議なくらいの強い感情だった。
 なのに、その時の私は妙に冷静だった。 自分のなかの強い想いに驚いていたくせに、――ああ、とうとう気付いてしまった・・・とも思っていた。今まで気付かずに遣り過ごしていたのに。
 気付かないように、見ないように、していたのに。
 もうこれで、全てお終いになる。――自分の気持ちに気付いてしまったから。
 その時、そこは戦いの地で――私は当の彼の腕に守られていた。 とはいっても、ロマンチックな要素は微塵もない。私は四方八方に意識を向けていたし、彼は彼で私が彼の望むデータを告げるまで敵を遣り過ごすことに必死だったから。
 「まだか、003」
 「待って、――」
 「――早く。もうこれ以上は」
 私は必死だった。必死で、見えない陰影を追い求め――それこそ、目の奥が痛くなるくらい限界まで閾値を上げていた。
 そのくらい、必死だったのに。
 なのに。
 私はこのひとが好きなんだわ。――きっと。 そんな想いも同時に抱えていた。他人が聞いたら、不謹慎だと笑うだろう。
 それどころじゃないだろう、と。もっと時と場所を考えろ、と。
 戦いが終わった後の安全な場所で、いくらでも考える時間はあるだろう、と。
 けれど、私たちには「戦いが終わった後の安全な場所」があるのかどうかもわからなかったし、何よりそこに自分は居るのかどうかすらもわからない。そんな運命を背負っていたから。だから――
 私はこのひとが好き。 戦いの渦中でそう気付いてしまったことは許して欲しい。何故なら、だからどうということもなく、甘い雰囲気になるなんてことももちろんなくて、むしろ――
 このひとが私を好きになるはずがない。ありえない。 限りない絶望にも同時に気付いてしまったのだから。 彼が私の名を呼ぶときは、私のちからが必要な時。そこにはどんな感情も介在していない。
 機械的に「003」とだけ、呼ばれる。硬質な声で。
 私にはフランソワーズという名前があるのに、戦いから離れても彼はそう呼んではくれなかった。
 いつでも私は、彼にとって「003」でしかないのだ。
 だから。
 私は彼への恋を自覚したその時に――同時に、その「恋」を失った。       
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