「003!一体きみは何を――」

 

それが、最後に聞いた彼の声だった。
そのあとの記憶は、ない。

 

「――フランソワーズ!気がついたか」

目を開けると、心配そうに集まっているみんなの顔が見えた。

ジェットがいる。その横にはグレート。それから、張々湖。そのうしろにはジェロニモ。

「全く、お前さんも無茶するぜ」

呆れたように言ったのはアルベルト。

「でもまぁ、気がついたんだし。叱るのは後でいいんじゃない?」

ね?とウインクするのはピュンマ。

「けどよ」
「まぁまぁ。心配するのもわかるけど、今はゆっくり休ませようや」

グレートがアルベルトの肩に手を置く。

「ホラホラ、出た出た」

そのままみんなをせきたてて部屋から出て行く。
一番最後に残ったのはジェロニモと張々湖。

「全く、無茶するにも程があるネ!」
「・・・ごめんなさい」

自分に何が起きたのか――は、自分が一番よくわかっている。
後悔してはいなかったけれど、みんなに心配をかけたことは確かだったので私は素直に詫びた。

あの時、彼の手から逃れて走った私を――倒れた私を庇ってくれたのはジェロニモと張々湖だった。

「あの坊やは、自分ひとりでも大丈夫だったのにって言って荒れてるあるネ」
「・・・そう」

目に見えるようだった。だから、苦笑するしかない。
確かに、私が囮になって陽動しなくても、彼は全く問題なく敵地を突破できたのかもしれなかった。
だけど、そんな「もしも」に賭けたくはなかった。
もし――突破できなかったら?
私が彼のそばにいるだけで、彼の足手まといになるのは確実だった。
何故なら、彼は仲間を見捨てない。だから、私のことも見捨てない。たとえ自分がどうなっても。
そんな目に遭わせる気はなかった。
私は彼を守りたかった。
だから、自分から手を振り払った。

肩を直撃されてあっさり倒れた私。
囮になれたかどうかも定かではなかったけれど、敵の注意が数秒でも彼から離れればそれで良かった。
その時点で、彼は突破口を見つけるはずだから。
そうして、掃射されそうになった寸前、地面から張々湖が現れ私を引き込み――同時にジェロニモが盾になった。

そのあと、私は自分がどうなったのかも、彼がどうしたのかもわからない。
でも、いまここにこうしているということは――きっと、彼も無事だったのだろう。

「あの・・・ジョー、は?」

姿が見えないのが気になった。
もしかしたら、私のしたことは全部無駄で――彼は彼でメンテナンスの最中なのかもしれない。

すると、張々湖とジェロニモは一瞬お互いの視線を交差させた。

「心配ない。ジョー、無事」

ジェロニモの声にほっと胸を撫で下ろす。

「そう。良かった」

姿を見せないのはどうしてだろう――とは、思うものの、さっき張々湖が「荒れてる」と言っていたから、きっとここには来ないだろうとは予測できた。
余計な事をした私に呆れ、怒っているに違いない。
本当に――私のした事は、彼の能力を過小評価した結果の、余計な事でしかなかった。
勝手に判断して勝手に行動して――みんなに迷惑をかけ、心配をかけた。
リーダーである彼が怒るのも無理はない。

「何しろ、あの坊やはずーっと『フランソワーズが目を醒ましたらただじゃおかない』って言いっ放しあるネ」
「熊のようにウロウロしてた」
「そうそう。落ち着かないったらないネ!かといって、ここに入るのは嫌だと言うし」
「世話が焼ける」

漫才コンビのように、上手に合いの手をいれながら二人が話す。

私はそんな二人の会話を微笑みながら聞いていた。
二人の言う事が、嘘だとわかっていても――心遣いが嬉しかったから、気付かないふりをした。

ジョーが私なんかを気にしているわけがない。ましてや心配なんか。
呆れて怒っている相手を心配してウロウロしたりなんて――するわけがない。

その証拠に、二人の会話のなかの彼は、私のことを名前で呼んでいる。

そんなの有り得ない。

だからこれは、優しい二人の優しい嘘。

きっとジョーは今頃――私の事なんてすっかり忘れて――そもそも、彼の思考の片隅にさえ上る理由なんてないのだから――次の作戦のことを考えているだろう。