「届く気がしない」
  君のことが好きだと気がついたのはいつだっただろう?   僕は君を腕に庇いながらそんなことを考えていた。そんな場合ではないのに。 ともかく――僕は狙いを定め、四方の敵に意識を集中した。腕に惚れた女を抱えて。   しかし、突破口は見つからなかった。 「――っ!!」 「・・・ジョー。私が敵を引きつける」 敵をなぎ倒しつつ脱出を図った。      
   
 
       
          
   
         周りを敵に囲まれ、僕は右手にスーパーガンを持ち、左腕に彼女を抱えていた。
         腕の中の彼女はというと、怖がって大人しくしている――はずもなく、その横顔は精悍そのものだった。
         僕には視えない何か。僕には聞こえない何かを探している時の顔。
         今の彼女には、すぐ近くにいる敵の存在など見えていないのだ。ただ、探す何かを見つけることにのみ意識を集中している。
         こんなに近くにいる僕の存在さえ、今は意識の片隅にも上っていないに違いない。
         だから僕の役目は、彼女の身柄を守ることだった。傷ひとつつけるものか。完璧に守ってやる。
         それは「仲間」だから、という以上のものがあるからだ。――と気付いたのは、いつだっただろうか。
         惚れた女だ。絶対に守る。
         次第に焦りが出始めた僕に、彼女はまだ見つからないと言い切った。
         「まだなのか?」
         「待って。微かに――」
         そうして再び意識がこちらから逸れる。
         彼女を守りつつ応戦するにも多勢に無勢で、徐々に限界に近付いてきていた。
         かといって、無闇矢鱈に加速するわけにもいかなかった。何しろ、加速してしまうと彼女の目と耳は一時的に使えなくなる。加速している間は、彼女のちからは封じられてしまうのだから。
         「003、早く――」
         「待って」
         「しかし、もう」
         「しっ!・・・微かに・・・何かが」
         「わかったのか?」
         お互いに顔を見合わせた瞬間、隙ができた。敵はその一瞬を見逃してはくれなかった。
         咄嗟に庇うのが精一杯だった。
         僕の左腕は――
         「ジョー!!」
         「大丈夫だ」
         くそっ。
         彼女を背に庇い、スーパーガンを撃ちまくる。
         あと数分。いや、数秒でもいい。もちこたえれば援軍が――
         「えっ?」
         応戦している最中に背後から言われる。が、何を言っているのかよく聞こえなかった。
         かといって、彼女に意識を集中することはできない。そんなことをしたら二人ともやられてしまう。
         だから、フランソワーズが何をしようとしていたのか、僕は全く知る事ができなかった。
         「――行くわ。あなたはこの隙に」
         「っ!?」
         振り返り、腕を伸ばした時は遅かった。
         彼女は敵の攻撃が集中する渦中に身を晒していた。
         「――003!」
         僕の左腕は破損が酷く、彼女を捕まえるのが数瞬遅れた。
         ひらりと目の前に現れた標的を敵が見逃すはずがない。
         彼女に攻撃が集中しようとする一瞬、こちらへの注意がおろそかになった。
         僕はその一瞬を逃さなかった。
         途端、フランソワーズが銃撃に倒れる姿が目に入った。