メディカルルームの前で、僕は成す術もなく立ち尽くしていた。激しい後悔と共に。

僕の左腕は、肘から下を打ち抜かれ全く動かなくなっていた。が、肘の部分の神経組織を再接続しただけで簡単に元通りになった。だからこんなの、ケガのうちに入らない。
彼女の方が、よっぽど重症だった。あの時、006と005が間に合わなかったら。
そう思うと吐き気がした。
自分の目の前で。自分のせいで、彼女を失うところだった――なんて。

「おい」

声と同時に肩を掴まれた。

「入らないのか?」
「・・・ハインリヒ」
「意外と元気そうだったぞ」
「・・・そう」
「会わないのか?」
「僕はいいよ」

どんな顔をして会えばいいのだ。
守りきれなかった彼女を前にして、平静でいられるはずがなかった。

いったん中に入ったみんながぞろぞろ出てくる。張々湖とジェロニモを残して。
あの二人がフランソワーズを守った。完璧に。だから、彼女と一緒にいる資格がある。
守りきれなかった僕にはその資格が――無い。

 

フランソワーズ――003は、フランス人の綺麗な女の子だった。
最初に会った時は、ただの生意気な女としか思わなかったけれど、月日が経つうちにそれが変わっていった。
誰に対しても明るく笑みを絶やさない。が、怒るときは怒る。叱ることもしばしば。けれどそれは「仲間」に対する愛情に他ならなかった。それらは僕達へ平等に注がれるものであり――野郎共はいつしか彼女の笑みに迎えられることが嬉しくて、彼女の言うことならほぼ何でもきくようになっていた。
だから、彼女を守ることは至上であり、必ず誰かが彼女のそばにいた。どんなときでも。
お互いにそれは暗黙の了解と化しており、それも含めて仲間同士の信頼関係は強固なものになっていった。
ただ、彼女自身は守られる一方であることに抵抗があるようだった。迷惑をかけている――と、思っているようだった。僕達はそんな彼女にとりあわず、「彼女を守る」ことを最優先事項としていた。
だから、まさか「彼女に守られる」ことがあるなんて思ってもいなかったのだ。

他の仲間がどう思っているかは知らない。
だけど僕は――「仲間」だから、守っているのではなかった。
惚れた女だから。
誰よりも大事だから。
だから、彼女を守りたかった。何者からも指一本触れさせずに。

僕が彼女にできることは、それしかなかったのだから。