優しくて、綺麗で、可愛くて。
穢れを知らない、可憐な女性。
それがフランソワーズだった。
僕とは天地の差がある。どう考えたって届くはずがない。
手を伸ばすことさえ、はばかられた。
彼女に触れることなんか許されない。僕にとって彼女は、遠くからただ憧れるだけの存在。
どうしたって、どんなに思ったって――届くはずがないのだ。
可憐なバレリーナ。スポットライトを浴びて優雅に舞う。
その姿は何度見ても美しく、まさにそのために生まれてきたような女性だった。
僕とは大違いだった。
望まれず、闇に生きていた自分とは――そもそも棲む世界が違うのだ。
その証拠に、今まで知り合った全ての女性の誰とも彼女は違っていた。共通点などひとつもない。
この汚れた手で触れてはいけないのだ。
ただ僕は――そう、彼女が平和に生きていけるように。それしか出来る事がないのだ。彼女のために。
なのに。
僕は彼女を守りきる事ができなかった。
いや、それよりもっと悪い。
彼女に守られてしまう――などと。
守ることもできず、反対に守られてしまうなんて最悪だ。最低だ。
009として、リーダーとしてはもちろん、男としてさえ、僕は最低だった。
惚れた女を守りきれないなんて、僕のこの力は何の為にあるというのだ。
いつも、いつも――細心の注意を払って。その髪に頬に火の粉のひとつさえ降りかかることがないように。ほんの微かな爆風でさえ感じることなどないように。大切に、大切に守ってきたのに。
なのに、このざまはなんだ。
僕はいったい何をやっている?
彼女は――フランソワーズは、仲間ではあるけれど僕達とは違う。
スポットライトを浴びて、夢に向かって可憐に舞う。それが一番似合っている。
僕達のように、血にまみれ、荒野を駆け、破壊を繰り返すというような日々を送ってはいけないのだ。
だから僕は、彼女がそうならないように――もし避けられなくても、最小限にとどめられるように――守ってきたし、守りたかった。そう自分で決めていた。
なのに。
僕はいったい――何をやっているんだ?

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