|     車の中ではお互いに無言だった。 だって、何を話したらいいのかわからない。考えてみれば、ジョーと共通の話題なんてあるはずがないのだ。ミッション以外では。
 「・・・勢いで言ってしまったけど、大丈夫かな」
 ふと、ジョーが苦笑しながら言った。
 「大丈夫って何が?」
 「張々湖の買い物」
 そうしてこちらにメモを寄越す。 「フランソワーズ、わかる?」「ん・・・そうね。たぶん」
 「良かった。――あてにしてるよ」
 「あら、光栄だわ」
 名前を呼ばれたのが嬉しくて、私は頬が緩むのを隠すようにわざとつんとして言ってみた。 ジョーが笑う。 私も笑った。   ふたりっきり。   ジョーとふたりでいられるだけで、私は幸せなのだ。   ***   着いた大型スーパーで、ジョーは全く役に立たないひとであることがわかった。だって、何にもわからないんだもの。
 だから、彼は荷物持ちとして私の後ろからカートを押す係となっていた。
 私は先頭に立って、食材を吟味しながらジョーのカートに入れてゆく。
 なんだか想像していたのと違う。 隣のカップルは仲良く一緒に野菜を選んでいるのに、私たちときたらただの――買い物係と荷物係。色気も何もありはしない。
 でもそれは当たり前のことだった。だって、私とジョーはそういう仲ではないし、私が勝手にジョーに思いを寄せているだけでジョーは何も知らないのだから。
 それにこの気持ちを彼に伝えるつもりは最初からない。 そんなの、伝えたって――伝わったって、ジョーにとっては迷惑でしかないの知ってるもの。ジョーにはちゃんと、・・・好きなひとがいるっていつか聞いたような気がするし。
 だから、私はこの思いを伝える気はないし、うっかり伝わってしまったりしないように気をつけなくてはならなかった。
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