「ピンクのルージュ」
「あげる」
「どうしたの?これ」 それには答えずにまっすぐキッチンへ行く後ろ姿を追いかける。 「んー?それね・・・」 コップに水を注いで飲みながら。 「今日のイベントでもらったんだ」
それは、ジョーのチームのスポンサーのひとつである化粧会社主催のものだった。
まだ発売前の。 「きれい・・・」 彼のことだから、きっと訳もわからず押し付けられただけのシロモノだろうけれど。 「うん。似合いそうだね、つけてみたら」 珍しい。 「・・・そうね」 なんだか頬が熱くなってしまって、慌ててリビングに戻る。 鏡に映った私。 どうかしら。 似合ってるかしら。 「――うん。似合うね」 後ろから抱き締められた。耳元でジョーがそっと囁く。 「びっくりした。おどかさないで」 でも、腕は緩まない。 「・・・ジョー?」 鏡に映った彼の瞳。 「ねえ、・・・知ってる?」 ジョーは一瞬、吐息のように笑うと、私をくるりと自分の方に向けた。 「違うよ。それはね・・・」 少しずつ僕に返してね、って意味なんだよ。 小さく早口で言ってから、ジョーはそっと唇を重ねた。
|