帰投中のドルフィン号の中。
休憩室でピュンマの作ったゲームソフトにあれこれ質問しては遊んでいる皆から離れ、ひとりコックピットに残っているジョー。
シートをやや後方に倒し、足を組み、両手も頭の後ろで組んですっかりリラックスした様子。でも、目は前方のスクリーンを睨みつけたままだ。

「お疲れさま」

さかさまに上から覗き込むと、眠たそうな声が返ってきた。

「・・・ん。フランソワーズ」
「いけない人。眠っていたの?」
「起きてたよ」
「いくら自動操縦中っていっても気をつけなくちゃ駄目よ」
「・・・そうだね」

とはいえ、何かあってもジョーのせいにはならない。何しろ、他のみんなは見張りをジョーに任せたまま遊んでいるのだから。
ただ、そんな風に任されたことにジョーは異を唱えたりもしないし、むしろ歓迎している風だから、私はそれが気になった。

「・・・なあに?ジョー」
「うん・・・」

隣のシートに座った私をじいっと見つめる褐色の瞳。

「ちゃんと前を見てなくちゃ、・・・」
「うん。――見てるよ」
「だから、私じゃなく前を」
「うん。そうだね」

ジョーはゆっくりと立ち上がると、突然少し屈んで私の唇を奪った。
でも、ほんの一瞬。

だけど。

「・・・ジョー。駄目よ、こんな所で」

私の小さな抗議に耳を貸さず、ジョーは至近距離で微笑んだ。

「――フランソワーズが悪いんだよ。・・・そんな口紅をつけているから」
「えっ、だって・・・だからって」
「聞こえないな」

そうして今度は先刻よりも――本気のキスだった。