あなたは知らない。

女の子って、結構したたかで計算だってしているということを。

私だって例外ではない。
あなたはどこか私を神聖視していて、何の穢れもない無垢な女性のように扱うけれど。


あなたがルージュをくれたあの日。

――男性が女性に口紅を贈る理由。

私はわざと知らないふりをした。
あなたに抱き締めて欲しかったから。

そして、今は。


わざと、あの時の口紅をつけた。


あなたにキスして欲しかったから。

 


 

 

彼女が知らないはずはない。

何しろ、イベント会場にいた女の子たちは殆ど知っていたのだから。

――島村さん、知ってます?男性が女性に口紅を贈る理由。ちょっとずつ自分に返してね、って意味なんですよ。

そして、手におしつけられた新色のルージュ。
僕も誰かに贈れとそういうことのようだった。

だから僕はフランソワーズに贈った。

そして――フランソワーズは知らないふりをした。
「贈る理由」を知らないはずがない。


今日だって、フランソワーズがあの時の口紅をつけていたのは、きっと偶然ではない。

君の――可愛い誘い。

だから僕はそれにのった。
せっかく君が、キスする「理由」を作ってくれたのだから。