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 先刻までの、心が浮き立つような気分はすっかり消えてしまった。 心なしかマロニエの花がピンクではなくグレイに見えてきた。ざわざわと揺れる葉も花も、今では自分を哀れんでいるような――そんな気さえしてくる。 
 フランソワーズ。 
 君は来ないのだろうか? そう思っても、僕はこの場所から動けずにいた。 もしかしたら、来るかもしれない。 ――いつまで? あとどのくらい待てばいい?――彼女がここに向かっているというあてもなく、約束を忘れていないという保証もないのに。 我ながら馬鹿だと思う。 
 僕は――フラレたのだ。 
 
 *** 
 そういえば、昨日電話をした時もなんだか様子が変だったような気もする。 移動の合間に時間がとれたから、急で申し訳ないんだけど明日会えないかい? そんなような事を言ったはずだった。 あら、本当に急なのね。――特に用事もないし、大丈夫よ。私も会いたいわ。 という意味合いの返事をしてくれたような気がする。が、定かではない。 あまりに急な話で強引すぎやしなかったか? 僕が強引に誘ったから、仕方なく・・・とか。 他に用事がないから、まぁいいか・・・とか。 そんな消極的な理由に因る邂逅なのだろうか? 僕のように積極的に「会いたい」とは到底・・・思ってくれてはいないのだろうか。 だから――ここに来るつもりはないのだろうか。 いつも強引になってしまう自分の物言いを僕は初めて反省した。 
 *** 
 
 フランソワーズ。 フランソワーズ。 フランソワーズ・・・・! 
 心の中で何度も何度も名前を呼ぶ。 君の蒼い瞳を見たい。 見つめられたい。 そして、その亜麻色の髪に指をからめ、抱き寄せて・・・・ ――フランソワーズ。 もう、会えないのか? 君にこんなに会いたいと望んでいる僕を知っているくせに、会えないというのか。 心の中は君でいっぱいだった。 ――フランソワーズ。 ふらふらとベンチから立ち上がり・・・樹にもたれる。 フランソワーズ。 
 好きだよ。 
 愛してるよ。 
 君だけだよ。 
 フランソワーズ。 
 僕は君だけを―― 
 
 *** 
 
 樹にもたれたまま――どのくらい経っただろうか? ふと。 
 噴水の前に、 
 ――亜麻色の髪の、 
 息を切らして。 
 よろけるように。 
 髪もぐしゃぐしゃで。 
 僕の―― 
 ――僕の、フランソワーズ。 
 
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