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肺の機能がついていかない。――息が苦しい。 足も、いまにももつれそうに重く――これ以上走り続けるのは限界だった。 だけど、走るのをやめない。 何故なら、私は・・・
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目が覚めたら、午後4時だった。 約束の時間は午後2時。 そんな悪夢があるだろうか。 ちゃんとアラームもセットした。――確かにそれは作動していたようで、止めた様子は見られなかった。つまり、私はアラームには全く気付かずに惰眠をむさぼっていたということ。 携帯の着信を確認した。が、何も記録されていなかった。何故なら――寝る前に電源をオフにしてしまっていたから。 ああもう。 最悪。 ベッドの上で呆然と頭を抱えた。
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ジョーから連絡がきたのは昨日の昼間だった。 そうして、今日の午後2時に待ち合わせることに決まったのだった。 通常なら、眠ったりするような時間帯ではなかった。 それが、まさかこんな事態を引き起こすとは。
約2時間の遅刻。 とるものもとりあえず、部屋を飛び出した。 絶対、怒ってる。 もうパリにはいないかもしれない。 だけど、それならそれで――ジョーは私のアパルトマンがどこにあるのか知っているのだから、直接訪ねて来てもおかしくはないはず。けれども、それをしていない。ということは―― ――怒ってる。 私よりも彼の方が時間の遣り繰りが難しいことは知っている。なのに、せっかく割いてくれた時間を私は無駄にしてしまった。 もういないに決まってる。 そう思いつつも、待ち合わせ場所に向かうべく走る足を止められなかった。 もしかしたら。 ――もしかしたら、待ってくれているかも・・・しれない。 それは、自分勝手な願いだったけれども。 でも。 私はジョーに会いたかったのだ。
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息も切れ切れに、目的の地・公園に入る。 ふらふらになりながら、辺りを見回す。 ――いない。 噴水広場には親子連れが二組居て、それ以外に人影は見当たらなかった。 ・・・当たり前か。 一縷の望みに縋ってみたものの、やはりそれは安易で自分勝手な願いであり、現実世界はそんなに都合よく回ってくれてはいなかった。 もう一度、携帯で彼の番号を呼び出す。 が、繋がらない。 せめて謝りたいのに。 泣きそうな思いでふらふらと噴水のそばに寄り――水に手を浸す。冷たくて気持ちが良かった。 陽はまだ高かったけれど、人影は少なく――そのなかにジョーの姿は見つけられなかった。 噴水広場を包むように植えられているマロニエの樹。 緑色とピンク色に包まれて、そこは気持ちの良い場所のはずだった。
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