「再会」

 


―1―

 

「えっ?……なんて言ったの、ジョー」


もう滅亡したはずの星の名前を聞いたような気がして、フランソワーズは思わず訊き返していた。
そんなわけはない。そんなはずはない。聞き間違えだろう。そう思いながら。


「だから。ファンタリオン星から連絡がきたって言ったんだよ」


電話の向こうのジョーの声は心なしか嬉しそうだった。


「ファンタリオン星……って……」


だって、女王も星も滅亡したはず――


「この前、ギルモア研究所にハイパーウェーブで通信が入ったんだ。それで、ファンタリオン星が無事だったことがわかった」
「……そう……」
「それで、王国の復興再建が叶ったからその御礼にあの時関わったひとを招待したいって」


――生きてたんだ。あの女王――


フランソワーズは複雑な思いでいっぱいになった。
それはもちろん、あの星でのことを思い出したというのもあるが、ジョーの声が嬉しそうだったのが大きいだろう。
嬉しそうなジョー。

それは当然だろうとは思う。彼は、あの星含む女王を助けられなかったことをずっと悔やんでいた。
今まで口に出して言いはしなかったけれど、ずっと心に引っかかっていただろうことは想像に難くない。


「行くよね?フランソワーズ」

「えっ?」


なぜ?


「関わったひと全員といってもみんな色々忙しいし、仕事によっては長期に休みがとれるかどうかっていうのもあるから行けるかどうかの確認をとっている最中なんだ。僕は今、ちょうどオフシーズンだし一ヶ月くらいならまぁなんとかなるけど」
「でも私は――」
「いまは公演もないだろう?」
「そ。そうだけど……」


別に会いたくはない。あの女王に特別な思いなどないのだから。


「そうだけど――そういえば、どうして無事だったのかしら。あの――星のひとたち」
「それなんだけどね。どうも僕が願っていたらしいんだ。あのボルテックスのなかで」
「え?」
「ウン。そんな余裕なかっただろうって自分でも思うんだけど」
「そう……」


ボルテックスのなかで、ジョーだって極限状態だったはずだ。
だから彼は彼のなかで優先順位の高いものから望んでいった。つまり強く思っているものから。
時間的制限だってあっただろう。だから彼は自身を含めた仲間全員が無事に地球に帰ることと、004の生還を願った。
そうやって、なんとか戻って来られたのだ。
フランソワーズはそう思っていた。だからあの時、女王が生き返ることや星の復活を願ったのかと彼女が訊いたときジョーは「わからない」と答えたのだろう。と。
きっと彼のなかでは、女王やあの星のことは――助けられなかったのは残念だけど、我々仲間の絆と比べたら優先順位はずっとずっと低かったのだと――そう、考えていた。

しかし。

結局、あの星関連のものや人たちが無事に居たということは、彼のなかでけっこう上位にあったということになる。もちろん、どちらのほうが良かったのかと問われれば、無事であるほうがいいに決まっている。
それに、そのことが彼とって女王が特別な存在であったと証明するものでもない。

が、しかし。

フランソワーズの心は波立った。


「そうそう、サバも無事だったよ」
「えっ、本当?」
「ああ。両親も生きていて、彼の星も無事に復興した」
「まあ!良かったわ」

それは素直に嬉しかった。
元々は彼が助けを求めてきたのだったし、それに間に合わなかったことがフランソワーズは悲しかったのだ。

「会いたいわ」

サバも生きているなら。無事な姿を確かめたい。

「よかった。君なら一緒に行ってくれると思ったよ」

ほっとしたようなジョーの声。
しかし、彼のなかではフランソワーズが一緒に行くということが前提になっていたようでもあった。
ジョーは一瞬でも疑わなかったのだろうか?フランソワーズが断るということを。
しかし。
フランソワーズはそう思ったものの、すぐにそれを打ち消した。

ジョーはフランソワーズとファンタリオン星のタマラ女王との確執に気付いていないのだ。知らないのだ。
ならば余計に行かないわけにはいかない。
あの女王に、わだかまりがあるから来ないのだと思われたくはないし、ジョーにそれを気付かれるのは嫌だ。


「もちろん、一緒に行くわ」


明るく言って通話を終えた。

 


―2―

 

結局、全員が行くことになった。

なんだかんだ言って、こういう機会でもなければ全員が揃ってどこかへ行くなんてことは早々無い。
しかも今回はミッションでもなんでもない、言ってしまえば「全員揃っての旅行」なのである。
全員が都合をつけたのも当然といえば当然のことかもしれない。

迎えの船に乗り星間飛行を続け――到着したファンタリオン星は、美しく復興を遂げていた。

そしてサイボーグメンバーは大歓迎された。なんと記念式典まで設けられたのだ。オープンカーで民衆のなかをパレードするというのは、いざ経験してみると照れるとか緊張するとかいうよりもなかなか疲れるものであった。
メンバーのなかでそういう行事に慣れているのはただひとり、ジョーだけである。
しかし、そんな彼も長旅のあとのせいかやや疲れたような笑顔を見せていた。


「みなさま、ようこそ」

笑顔を浮かべタマラ女王が手を差し伸べる。

「この星がこうして復興できたのは、みなさまのおかげです。この星を代表してお礼を申し上げます」

ゆっくり膝を折り、頭を下げる女王に民衆も迎合しひれ伏した。
檀上でただ驚くゼロゼロナンバーたちである。
彼女がこうも下手にでるのは、なにか他意があるのではないかなどと勘繰りたくなってしまう。
しかし、女王の笑顔は澄み切っており、本心からの言葉や行為に違いなかった。

ほどなくして宴が始まった。
ゼロゼロナンバーたちを中心にタマラ女王はもちろん、その側近やファンタリオン星の著名なひとびと。
宴に参加している人数は数百人に及んでいた。

「皆様のホログラフィーを王宮に設置しようという案が出ているんですよ」
「えっ」
「この星の恩人であり、我らが女王の恩人でもある。大切な方々ですから」
「そんな……」
「いやいや、ジョーならともかくワシらもなんてありがたい話じゃないか、え、ジョー」
「そうかな」
「まぁ、いいんじゃないか。どうせ遠い星の話なんだし」

そんな会話を聞きながら、フランソワーズは料理をつついていた。あまり食欲がない。

「――どうかされましたか」
「えっ」

突然、耳元で声がしてフランソワーズは顔を上げた。
見ると、女王の側近のひとりとして紹介された男性であった。心配そうにフランソワーズを見ている。

「え。あの」
「さきほどから何も召し上がっていない御様子。お口に合いませんでしたか」
「いえ。その……疲れてしまって」
「――ああ。到着してすぐに記念式典でしたからね。これは配慮が足りませんでした」
「いえ、あの」

頭を下げる男性に慌て、フランソワーズは立ち上がった。が、思わずよろけてしまった。
その腕を男性が咄嗟に掴み、あちらに控え室がありますと誘導された。フランソワーズは別に疲れていたわけではないのだが、――横目でふたつ先の席にいるジョーを見て――頷いた。
彼はずっと女王の隣に居り、こちらをちらとも見ていない。
それが社交辞令なのか、それとも――女王を前にしてフランソワーズなどどうでもよくなってしまったのか、真意は定かではない。が、フランソワーズは全く食欲が湧かなかったし楽しくもなんともなくなってしまっていた。
きっとジョーは自分のことなど眼中にないのだ。どうでもいいのだろう。
そう思い、別の部屋にいけるのならとついていくことにした。

 

***

 

「ご気分はいかがですか」


宴会場を出たところにある小部屋は静かだった。見たところ、控え室というより誰かの私室のような感じである。王宮にあるのだから、きっと女王の私室なのだろう――あるいは誰か側近の。

「ええ。ありがとう。大丈夫です」

しばらくそこにひとりにされ、フランソワーズは落ち着いてきた。
自分はここに女王と対決しに来たわけではないのだ。女王だって、以前のようにジョーに言い寄ったりもしていない。それに――そう、確か……


「お水はいかがですか」

ちょうどタイミングよくやってきた男性に目を向け、フランソワーズはやっと思い出した。そう、確かこのひとは

「女王のフィアンセ……」

そうだった。
フランソワーズたちが到着してすぐに、彼はフィアンセですと紹介されたのだった。復興を目指す過程で知り合い、思い合ったのだという。それが本当ならば、女王はとっくにジョーのことなどどうでもよくなっているはずである。実際、彼ら二人は仲睦まじく、誰がどう見てもアツアツの恋人同士にしか見えず、他人が入る余地などないようだった。
だから、彼女が連絡してきたのはジョーに会いたかったからなどというものでは全く無く、本当に純粋に御礼なのだろう。

――私ったら。

以前の記憶があまりに重かったのだろうか。
ファンタリオン星、タマラ女王という単語が並んだだけで気負ってしまった。だから、彼女が未だにジョーに執心に違いないと先入観を持ってしまった。
勝手にやきもちやいて落ち込んでいた。
よくよく考えれば、席順だって男女男女の順番で座ることも、貴賓と来賓が交互に座ることも、公式の場では当たり前といえば当たり前であり、ジョーがどうとか女王が画策したとか、そんなことは全くないのである。
全ては考えすぎであった。

「やっと笑いましたね」

ほっとしたように言われ、自分はそんなに引きつっていた顔を見せていたのかと恥ずかしくなった。
もう戻ります――と腰を上げたところで突然ドアが勢いよく開かれた。
そして、その勢いとともに何かが部屋に転がり込んできた。風とともに。


「――フランソワーズっ!!」


部屋じゅうのものが一瞬で攪拌されたように宙に舞う。


ジョーだった。

 


―3―

 

「――彼女、綺麗ですね」

自分に話しかけられたとは思わずジョーが無言でいると、

「実に美しい。一緒にいてあなたは何も思わないのですか」

重ねて言われ、やっとそれに気付きジョーは隣を見た。
いつの間にか見知らぬ男性が肩を並べて歩いていた。見知らぬ男性――否。先ほど紹介されたタマラのフィアンセであった。

「え……と」

いったい誰のことを言っているのだろうかと内心首を捻っていると、

「彼女ですよ。あなたのお仲間の」

視線で示され、同じ方をみるとフランソワーズの後ろ姿が目に入った。

「え。あ。……はぁ」

フランソワーズがそういう風に言われるのは慣れているし、そう思われて当然だとジョーは思っているのでいかせんせん、反応が鈍い。傍から見れば、恋人同士なのに反応が薄いと思われても仕方がないかもしれない。
で、やはり誤解されたようだった。

「あんなに綺麗なひとがそばにいるのに、わからないなんてなんてもったいない」

ため息をつかれてしまった。
僕は別にわからないとは言ってないんだけどなと思いつつ、面倒なので特にコメントをしないジョーである。
それより、女王の恋人なのに他の女性を手放しで褒めて大丈夫なのだろうかと変な心配をしてしまう。が、他の男の目をも奪ってしまうとはさすがフランソワーズだなあ、罪な女だまったくと納得してしまった。
それにしても宴会場まで随分遠い。さっきから結構歩いたような気がする――などなど思っていたら、知らずに視線がフランソワーズに固定されてしまっていたらしい。無意識に目に心地いいものを求めていたのかもしれない。


「先刻から彼女ばかり見てますね」
「えっ?……はぁ」

今までそんなことを指摘されたことはないから、ジョーはちょっと照れた。
仲間同士ではいつものことなので特に誰も指摘したりはしない。が、知らない者が見ればジョーは彼女に夢中なのだった。まるでヒマワリが太陽を追うように無意識にフランソワーズを視界におさめようとするから、奇異といえば奇異である。(もちろんフランソワーズは慣れていて、ひとこと「ああジョーはストーカーだから」でおさまる)

「美しいものを見ていたいというのはわかります。私のような者でも」
「……はぁ」
「私の女王もじゅうぶん美しいが、彼女はまた別の美しさがある。異星人というのは実に興味深い」
「……そう、ですか……?」

ジョーとしてもタマラは綺麗だと思う。が、だからといって異星人に興味を持ったりはしない。
だからちょっと警戒した。
彼はフランソワーズに興味を持ちすぎていないだろうか。
そう思った矢先だから、彼の次の言葉を聞いて目玉が飛び出るかと思った(いや実際飛び出たかもしれない)、

「一緒の時を過ごし、後に私たちの子孫ができたらいいと思ったりします」


一緒の時を過ごす?

し、子孫?

私たちの?


思わず足を止めたジョーに、彼は驚いたように振り返った。

「どうかしましたか」

どうかしたのかって。いま、さらりと何を言った――と、心の中で叫ぶジョーである。
いちおう、ここは宮殿内なので行儀よくしなければならない。

「――念のため言っておきますが」

ジョーのうろたえている様子に含み笑いをすると、彼は姿勢を正して続けた。

「冗談ではないですよ。ファンタリオン星では決まった相手に固定するということはありませんから。気に入った女性がいたら、さきほどのように申し込むのが礼儀とされています」
「なっ……!」

地球人から見ればあまりにストレートな告白である。が、そういえば数年前、タマラ本人から似たようなことを言われた経験があったから、ジョーは納得した。なるほど、そうだったのか――と。

しかし。

かといって。

フランソワーズにそう言わせる機会を与えるつもりは全く無かった。

冗談じゃない。
フランソワーズから目を離さないようにしなければ。

ジョーは固く心に誓い、宴会場に向かった。

 

 

***

 

 

宴席は女王の隣だった。
当然といえば当然だった。なにしろ自分たちは国賓なのである。しかもジョーはリーダーだ。
女王の相手をしなければならない――女王のもてなしを受けなければならなかった。
フランソワーズはジョーからふたり置いた右側の席にいる。が、女王はジョーの左隣にいるから、フランソワーズは死角になった。それだけでもじゅうぶん落ち着かないのに、さきほどまで女王の対面にいた彼女のフィアンセが席を立っているのが気になった。
宴もたけなわである。そろそろ席を立って動き回る者も出始めている。
女王はなにやら話しているが、そんなものはまるっきり耳に入ってこないジョーである。はぁとかええとか適当に相槌をうちながら死角になっているフランソワーズを全身を目にして意識する。ふだん、そういうことをやり慣れているから、フランソワーズがそこにいるのかどうかは感覚でわかる。
だから、数分後に彼女の気配が消えた時は背筋が凍った。
我ながら大袈裟なと思うものの、先刻の彼の発言もある。まさか、ここで実行に移すとは思わない――が、異星人のことはよくわからない。
変な汗が背筋を流れる。
いや、フランソワーズはただトイレか何かに行っただけだ。すぐ戻ってくるし、大体奴が一緒とは限らない。そうだ、きっとそうに違いない。嫌だなぁ僕は何を焦っているんだ。
手にしたシャンパンをがぶりと飲みこんだ。もちろん味などさっぱりわからない。そもそもそれがシャンパンなのかどうかも謎の飲み物であることはこの際措いておこう。
ジョーは待った。女王に適当な相槌を打ちながら。フランソワーズが戻ってくるのを。

1分。

2分。

……5分。

………10分。

トイレならもう戻ってくるだろう。ちらちら周囲を気にしてみる。が、フランソワーズっぽい気配は現れない。
もうちょっと待ってみよう。そう、混んでいるのかもしれない。あるいはトイレが物凄く遠いのかもしれない。そう、行き帰りに30分かかるような。

更に10分。

いらいらしながらもう10分。

待った。

待って待って待って――限界が来た。

右側を見る。もちろんフランソワーズはいない。
すみませんちょっとと言って席を立った。走りそうになるのを抑え、会場を後にする。

フランソワーズはどこだ。

影も形も見えない。


「あの、すみません――」

衛兵(?)にフランソワーズの外見を説明すると、ああそれならと指差した。

「あちらのドアの中にいます。さきほど伯爵が同行されて」

伯爵?って、誰だ。
ジョーの顔が物語っていたのだろう。衛兵(?)は「女王のフィアンセですよ」と教えてくれた。

そう聞いた途端、ジョーの頭のなかはいろいろなことが渦巻いた。

あのドアの向こうにフランソワーズがいる。伯爵と一緒に。何分も前から。

――で?

いったい、何がどうなってる。

何を――されている?


頭に血が昇るのと、恐ろしさに背筋が凍りつくのとが同時だった。
気がつくと奥歯を噛んでいて、――気がつくと、ドアを蹴り破っていた。


「――フランソワーズっ!!」


絶叫だった。

 


―4―

 

「ジョー?」

「無事かっ!?」


風を撒き散らし転がり込んできたジョーは、まるで敵地でフランソワーズを救出に来たかのように彼女を抱き締めた。

「え、と。ジョー?」

守るように腕のなかに抱き締められ、フランソワーズは息が詰まった。
いったいこのひとはどうしたというのだろう。

「何もされてないな?」
「何もって何が?」
「されてないな?」
「……ええ」

わけがわからなかったが、ジョーがあまりに必死なのでフランソワーズはとりあえず答えた。
すると、ジョーは途端に脱力した。

「……よ、良かった……」

大きく息を吐き、そのまま何も言わない。

「ジョー?いったいどうしたの」
「……」
「ジョーったら。ね。席を抜けてきていいの?女王様を放っておいちゃダメでしょう」

ジョーの身体を揺するが、ジョーはびくとも動かない。そんなふたりを呆然と見ていた伯爵がはっと我に返った。

「――大丈夫ですよ。私が相手をしておきますから」
「え、でも」
「彼はとても具合が悪いようですから、どうぞ介抱して差し上げてください。女王には私から話しておきます」
「あの、でも」
「やはり到着してすぐにあれこれ行事というのは大変でしたね。私から企画係に注意しておきます」
「……いえ、このひとはそういうわけではないと思うのでどうぞお気になさらずに」
「お心遣いありがとうございます。ですが、どうぞごゆっくりなさってください。しばし人払いしておきますので」
「そうですか?……じゃあ、お言葉に甘えて」

ジョーが蹴破ったドアの前にはいつの間にか衝立が用意されていた。
伯爵が一礼して去ってゆくと、フランソワーズは改めてジョーを見た。

「ジョー。いったいどうしたの」
「……突然、いなくなったから」
「まあ。捜しにきたの?」
「……ウン……」

フランソワーズはしばし絶句した。
まったく、このひとはどうしてこうなのだろう。子供じゃあるまいし、ほんのちょっと姿が見えなくなったからといってこうも必死に捜したりするだろうか。大の大人が。

でも。

それがジョーなのだ。


「フランソワーズ、なんだか元気がなかったし」
「そう?いつもと変わらないわよ?」


しかも聡い。
ことフランソワーズのこととなると、妙に聡いのはなぜなのだろう。それも、どうでもいいことばかり聡く、わかって欲しいことには全く気がつかないという鈍さを発揮するのに。

……メンドクサイひと。

フランソワーズはため息をつくと、ジョーをぎゅっと抱き締めた。
とりあえず――いなくなったことに気がついて中座して捜しにきたことは評価しておこう。嬉しくないわけがないのだから。ジョーの頬にキスしながら、でももうちょっと普通に捜しにきてくれたらもっといいのにと思った。

フランソワーズはジョーの事情を知らない。
が、ジョーは言うつもりは毛頭なかった。フランソワーズからキスをもらい、そのお返しのキスを唇にしながらジョーはひとつのことしか考えていなかった。
これから先、ここにいる間ずっと、もうフランソワーズから片時も離れないぞと。ちょっとでも隙があったら最後、子孫を造られてしまうかもしれない。考えるだけで恐ろしい。

「――ん。ちょ、ジョ」

ジョーのキスが深くなり、こんな場所でと押し戻したものの、ジョーの勢いは止まらない。
あきらめて受け容れるしかないフランソワーズだった。

――まったくもう、ひとの気も知らないで。

とはいえ。
さきほどからタマラのタの字も出てこないジョーに、フランソワーズの胸の奥にあったわだかまりは綺麗に消えた。
そう――もう、昔のことなのだ。
二人が寄り沿っているのを見た夜も。
全てはずっとずっと――過去のこと。

その時、ジョーが何を考え思っていたのかフランソワーズは知らない。が、もうどうでもいいことである。
きっと真相はフランソワーズの思っている通りだろう。
なにしろジョーはメンドクサイし、わかって欲しいことがわからないのにそうではないことは気付くひとなのだ。

それは今も昔も変わっていない。

だから――きっと。

 



―5―

 

「あら、ジョーとフランソワーズはどこに行ってしまったの?」

タマラ女王が眉間に皺を寄せると、伯爵は笑顔で答えた。

「ああ、二人ならたぶん子孫を作っていると思いますよ」


そこにいたゼロゼロメンバー全員が噴き出した。

が、同じ席にいるファンタリオン星の人々は何も反応しなかったから、この星では普通の会話なのだろう。
おそらくきっと意味も地球のそれとは異なるのだろう。

そうであって欲しい――と、地球人であるゼロゼロメンバーは思うのだった。