携帯が着信を知らせた。

いつの間にか目尻に滲んでいた涙を慌てて拭い、フラップを開け耳に当てる。

 

「――フランソワーズ?」

 

心臓がどきんとひとつ大きく跳ねる。

「ど、どうしたの?」

声が震える。

「うん。ちょっと時間が空いたから」

だって確か今頃は――まだサーキットで調整しているはずで・・・帰るのは遅くなると言っていた。

「――うん?なんだか声が変だな。もしかして泣いてた?」
「ううん。泣いてないわ」
「そう?・・・いま、大丈夫かな」
「ええ。大丈夫よ」

「いまどこにいる?」

「・・・公園」

どうしてそんなこと気にするんだろう。
――まさか、また何かあった?

「ジョー、あの」

「公園か。確か桜が見ごろだったはずだな」

のんびりした声。
――なにかあったわけじゃないのね。

「ええ。でも、もう散ってるわ」

足元に降る、花びら。

「――ひとりで?」
「えっ?」
「ひとりでいるの?」
「え、ええ。ひとりよ」

 

間。

 

「こんな時間に?」

まだそんなに遅いわけではない――と、時間を確認する。
午後7時。
ほら。
叱られるような時間ではない。

「まだ明るいわよ」
「・・・そう」

 

間。

 

目の前に舞い降りてきた花びらをてのひらで受け止めて、そして思い切って言ってしまう。

 

「私、明日帰るから」

 

「――そうか」

引き止めない。

むしろ、どこか――安心したような?

当たり前のことなのに、何故か胸が痛くなった。
勘違いなのだから早く終わらせよう、そう決めたのに、引き止めてもくれずただ頷くあのひとの声に涙が滲んだ。

そっか、私・・・

ひきとめて欲しかったんだ。