携帯が着信を知らせた。 いつの間にか目尻に滲んでいた涙を慌てて拭い、フラップを開け耳に当てる。
「――フランソワーズ?」
心臓がどきんとひとつ大きく跳ねる。 「ど、どうしたの?」 声が震える。 「うん。ちょっと時間が空いたから」 だって確か今頃は――まだサーキットで調整しているはずで・・・帰るのは遅くなると言っていた。 「――うん?なんだか声が変だな。もしかして泣いてた?」 「いまどこにいる?」 「・・・公園」 どうしてそんなこと気にするんだろう。 「ジョー、あの」 「公園か。確か桜が見ごろだったはずだな」 のんびりした声。 「ええ。でも、もう散ってるわ」 足元に降る、花びら。 「――ひとりで?」
間。
「こんな時間に?」 まだそんなに遅いわけではない――と、時間を確認する。 「まだ明るいわよ」
間。
目の前に舞い降りてきた花びらをてのひらで受け止めて、そして思い切って言ってしまう。
「私、明日帰るから」
「――そうか」 引き止めない。 むしろ、どこか――安心したような? 当たり前のことなのに、何故か胸が痛くなった。 そっか、私・・・ ひきとめて欲しかったんだ。
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