「フランソワーズ?」

 

はっと我に返る。

「どうかした?」

「ううん、なんでもない――」

なんでもなくはなかった。
でも、ここで泣いたりしたら困らせてしまう。そして、本当は帰りたくなんかないのだと気付かれてしまう。
それは避けたかった。
だから、務めて明るく言った。

「ジョーは、次のレースから復帰するんでしょう?――がんばってね」
「えっ?あ、うん。――がんばるよ」
「テレビで観ているから」

嘘だった。

あのひとのレースなんて観ない。

だって、観たら絶対・・・会いたくなってしまう。

忘れたいのに。

だからフランスへ逃げるのに。

だって、忘れないと・・・ひとり勘違いしたままの恋を抱えて惨めなだけ。
わたしひとりだけの恋。

 

「――テレビ?」

険を含んだ声が耳に響く。

「君はそれでいいの」

それでいい、って・・・何が?

 

「――僕は、駄目だな」

 

駄目、って何が?

突然怒ったような彼の声に、私はただばかみたいに同じ言葉を繰り返すしかなかった。

 

「――足りないよ。全然」

 

「足りないって、・・・何が?」

 

「――君が」