「フランソワーズ?」
はっと我に返る。 「どうかした?」 「ううん、なんでもない――」 なんでもなくはなかった。 「ジョーは、次のレースから復帰するんでしょう?――がんばってね」 嘘だった。 あのひとのレースなんて観ない。 だって、観たら絶対・・・会いたくなってしまう。 忘れたいのに。 だからフランスへ逃げるのに。 だって、忘れないと・・・ひとり勘違いしたままの恋を抱えて惨めなだけ。
「――テレビ?」 険を含んだ声が耳に響く。 「君はそれでいいの」 それでいい、って・・・何が?
「――僕は、駄目だな」
駄目、って何が? 突然怒ったような彼の声に、私はただばかみたいに同じ言葉を繰り返すしかなかった。
「――足りないよ。全然」
「足りないって、・・・何が?」
「――君が」
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