フランソワーズはあっけなく見つかった。

焦って部屋を飛び出した僕は、小一時間ほどあてもなく街を彷徨い――意気消沈して帰った。
するとそこにはフランソワーズがいたのだ。

「アラ、ジョー。どこに行ってたの?」

コーヒーの香りとともに蒼い瞳に迎えられ、僕はただ呆然と突っ立っていた。

「どこ、って・・・」
「もうすぐ朝ごはんができるから、手を洗ってね」
「あ、ああ――ウン」

フランソワーズの様子に変わったところはない。

「――あの、フランソワーズ?」
「なーに?」
「君こそ、どこへ・・・」
「んー。だって、冷蔵庫に何にもないんだもの。近くにコンビニがあって良かったわ」

コンビニ・・・。すれ違いか。

「どうかした?」
「イヤ・・・何でもない」

一瞬、蒼い瞳が煌いて――僕が彼女の瞳を捉えた時には、フランソワーズはキッチンに消えていた。

 

***

 

う。

何だコレ。

僕はフォークの先と、目の前にいるフランソワーズとを交互に見つめた。

「――どうかした?」

首を傾げ、にっこりと笑っているフランソワーズ。今日も綺麗だ。

「どう、って・・・」
「好きでしょう、ホットケーキ」

好きだけど。

だけど、これって。

けれどもフランソワーズは僕に構わず、すました顔でコーヒーを飲んでいる。

「あの、コレ」
「なーに?」
「・・・イヤ」
「ちゃんと全部食べてね」

え。

これを・・・全部?

「ジョーのために作ったのよ?」
「――あ、う、うん・・・」

何しろ、甘かった。
歯が溶けるかというくらい、甘い。
シロップをかけてないのに、甘い。
とにかく全てが激甘だった。

なんとかコーヒーで流し込んでいると、フランソワーズがカップを置いてポツリと呟いた。

「・・・そういえば、ファンタリオン星って、いまどうなっているのかしらね」
「――え?」

何?

何だって?

するとフランソワーズはつ、と顔を上げて

「気になる?」

と、笑顔で言った。

笑顔で。

・・・笑顔。なんだけど。

なんだか怖いよフランソワーズ。

「気にならないよ別に」
「・・・ふーん・・・」
「何?」
「嘘つきね、ジョーは」
「嘘、ってなんだよ。嘘なんて言ってないよ」
「そうかしら?」

そうかしら、って、一体何を根拠に。

「手が止まってるわ。ちゃんと食べてくれなくちゃイヤよ?」
「え。あ・・・うん」

僕は、アリもギブアップしそうなくらい甘いホットケーキを口に入れた。
甘くて甘くて胸焼けがする。

「・・・じゃあ、無意識なのね」

小さく言って頷いて、そうして再び僕をじっと見つめた。見張るみたいに。

「王女の名前って何て言ったかしら」
「知らないな」
「嘘。知ってるはずよジョーは」
「――忘れたよ。そんなの」
「ホラ。また嘘ついた」
「ついてないって」
「だって・・・」
「ん?」

ホットケーキ相手に苦戦していた僕は手を止めて、視線をテーブルに落としたフランソワーズを見つめた。

「だって、今朝言ってたもの」
「何を?」
「王女の名前」