「言ってないよ」 本当に忘れている。王女の名前。・・・いったい、何て言う名だったか。 「言ってたわ」 そんなはずはない。 「言ってない」 僕はナイフとフォークを置いた。 「・・・残すの?」 じっと見つめてくる蒼い双眸。睨むかのように。挑むかのように。 僕は小さく息をつくと改めて言った。 「嘘じゃないよ。そんなに信じられない?」 まさか、どう思ってるの――なんて訊いたりしないだろうな? 「・・・どう、思ってるの?」 ――頼むよ、フランソワーズ。何だって今更そんなこと・・・ 「――昨夜、たくさん言ったと思うけど」 そう言うと、頬を染めて俯いてしまった。小さく「ジョーのばか」と言って。 ふん。ばかで結構。 「傷つくなぁ。・・・何度言っても信じてもらえないなんて、どうすればいいんだよ?」 だって、王女の名前を呼んでいたから。と小さく言われる。 「――!言ってないし、忘れたと何度言えば」 一瞬目を瞑って、そうして――やっと笑顔を見せてくれた。 「わかったわ。・・・やだもう、安心したらお腹空いちゃった」 そういえばフランソワーズはさっきから何も食べていなかった。 「先に食べたかと思ってたけど」 これを? 「――いいけど・・・」 ひとくち大に切って、彼女に食べさせる。すると。 「――ん!!・・・・なにこれっ・・・!」 なにこれ、ってホットケーキだけど。君が作った。 「やだっ。ジョーったら、こんなの平気で食べてたのっ?」 君が作ったものだから。 「やだもうっ。砂糖の分量間違えてるわっ。もう、・・・それ、こっちにちょうだい。作り直すから」 そう言うと、フランソワーズはあっと言う間に僕の隣に来て、そうして―― 「・・・ごめんなさい」 僕の首筋に腕を回し、肩に頬を押し付けそう言った。 「何で謝るの」 僕はそんな彼女を抱き締める。 「・・・ごめんなさい」
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