「一緒って、いいな」

 

 

 

年始に引いたおみくじで、二人が一緒にいれば大吉――という結論になったから、ともかく今年はできる限り一緒にいようねと誓い合った。
私たちが一緒にいれば、いい事があるんだから・・・と、そう決めたはずだった。
けれどもやっぱり、そんなにずっと一緒にいられるはずもなく。
ジョーのレースを間近で観ることができたのは、第4戦になってからだった。

私とジョーはある程度公認になっていたから、今さらマスコミに追いかけられたりはしない。
年末のクリスマスパーティだって、堂々と二人一緒に出席しているし。
だから、パドックをうろうろしててもどうという事もなかった。

 

フリー走行の今日、パドックが急に騒がしくなった。
何事かと思い外に出てみると、フラッシュを浴びていたのは隣のピットのドライバーだった。
聞くところによると、熱愛発覚――と、いうことらしい。
相手はモデル。
ふうん。お互い有名人だと大変ね・・・と私は肩をすくめた。

と、突然腰に腕が回され、逞しい胸に抱き寄せられた。

「何、見てるんだい?」

耳元で響く甘い声。

「ジョー!びっくりしたわ」

先刻までメカニックマンとコンピューター画面を睨み、打ち合わせをしていたはずの彼がいつの間にか隣にいた。

「――色々、大変ね。って」
「・・・ふうん?」

ジョーは身を乗り出して外を見つめる。
マスコミに囲まれている仲間を見てどう思っているのか、その横顔からは知れない。

「――なるほど」

彼の口元に浮かんだ笑みに、私は嫌な予感がした。

「ジョー?何考えているの」
「ん・・・別に?」

ああ、物凄くアヤシイ。
何よ、その――何か企んでいるような笑みは。

「ああいうのって、レース放送前のトピックスとかに使われるんだろうな」
「その前にもう今頃はネットに動画が流れているわよ、きっと」
「ネット・・・そうか」

ジョーは軽く頷くと、私の腰に腕を回したままピットを出た。
数人の記者が私たちに気付いて振り返るけれど、カメラを向けたりはしない。
興味なさそうにすぐに視線は元に戻る。
私たちは既に「旬な」カップルではないような不思議な感じ。

「――ふん。どうせなら、トップレーサーのゴシップを流せ、ってんだ」
「え?」

言う間もあらばこそ。
ジョーは私の腰をぎゅっと抱き寄せると、いきなり熱烈なキスをしてきたのだ。

「んっ、ジョー、ちょっと」

待って。
と、言おうとしたけれど、後頭部に添えられたジョーの手が唇を離すことを許さない。

私は段々、力が抜けてしまい――後は、ジョーのキスに応えることだけしかできなくなった。

 

 

***

 

 

「ホラ。見てごらん。フランソワーズ」

その日の夜。
ノートパソコンの画面を示す指の先にあったのは、ジョーと私のキスシーン。

 

『ハリケーン・ジョー、恋愛も絶好調』

 

「・・・何よ、コレ」
「うん?レースも恋愛も絶好調なレーサーの話」
「はあ?」

顔を近づけてよーく見ると――関連記事の8割は「ハリケーン・ジョー」だった。
残りの2割は熱愛が発覚したばかりのレーサーの話で、扱いはとても小さかった。

「僕の勝ち」
「勝ち、って・・・」

張り合うなら、レースですればいいのに。

 

 

――でも。

 

「ジョー。好きよ」
「何だ、急に」
「言いたくなったの」

そうして彼の肩に腕を回す。

自分のゴシップで他のレーサーの記事を目立たなくさせる――なんて、咄嗟に思いつく、優しいひと。あのレーサーが新人だから、守ってあげたのね?

「――勝ってね」
「誰に言ってる。当たり前だろう。なにしろ、僕は」
レースも恋愛も絶好調なんだから。

と、ジョーは微笑んだ。