「鼻毛ジョー」
    ジョーの鼻から鼻毛が見えている。 だけど、指摘されたらけっこう恥ずかしいわよね? 男のひとって、案外こういうことにデリケートだから難しい。 私がじっとみているから気になるのだろう。ジョーがそわそわしてる。 「ううん。何もついてないわ」 鼻毛が気になるだけ。 「え、じゃあどうして」 そう言うと、ジョーは口の中でなにやらもごもご言うとそっぽを向いた。 でも待って。 そもそもサイボーグである私たちに鼻毛なんてあったかしら? 鼻毛には、空気を吸った時に体内に入り込む空中からの不純物を排除する役割がある。 ただしそれは生身の場合。 機械の私たちなら、鼻毛ではなく最初からそのものずばりのフィルターが鼻の中にセットされている。 でも、だったらジョーの鼻はいったいどうなってるの? 私が突然立ち上がったからびっくりしたのか、ジョーの体がジャンプした。 「なっ、なんだい?」 私はつかつか歩み寄るとジョーの鼻毛を指差した。 「なに、って……いやだな、やっぱり目立つか」 照れたように頬を掻く。 「さっき、ボールペンで鼻を掻いてたら書いちゃったんだ」    
   
       
          
   
         これって教えるべきかしら?
         かといって、何も言わないでいるのもどうだろうか。
         私は延々悩んでいた。
         彼の鼻毛はそのくらい悩ましかったのだった。
         「僕の顔に何かついてる?」
         「いいじゃない。ジョーを見るの好きなんだもの」
         かわいい。
         でも、そんなことより今は鼻毛問題よ。
         簡単に言えばフィルターだ。
         だからつまり、鼻毛なんて不要だし、そもそも生えてもこないはず。
         私はついに目のスイッチを入れた。
         ジョーの鼻を観察する。特に鼻毛を。
         あっ。
         「ジョー!」
         「なんだじゃないわ、なによこれ!」
         なにやってるのよ、もう!!
