「髭ジョー」 @

 

 

 

いつものようにジョーの顔を観察していた、とある朝。

観察……といっても、実はただ観るだけではなくて指で触ったりもする。
これは彼が目を覚まして「やめろよお」って鼻にかかった声で言うまで続く朝の私の日課。
いやがらせじゃないかって?まさか。
私はただ、ジョーの甘えたような「やめろよお」が聞きたいだけなのです。

ほんとよ?


そんなわけで、今日も寝ぼすけな彼氏の腕のなかで、彼の頬を指ですりすりしていたのだけど。

……ん?

違和感。

彼の頬はいつもすべすべしてて触って気持ちいいんだけど、今日はどこか違うような。
なんだろうと思ってよくよく見たら。


髭が生えてる


!!!???


えっ?


えええっ?


だってちょっと待って。
いーい?私たち、サイボーグなのよ?
爪とか髪とか似せて作ってあるけれど、でもやっぱり人工物には違いない。
だから伸びるってことは有り得ない。

そうよ、有り得ないのよ。

なのに。


ジョーの頬に髭。


なぜ?

ううん。

ってことは、このひとは生身?


え。


ってことは。


いやだ、このひとジョーに凄く似ているけれど、ジョーじゃない!?
そしてそんな偽者と私はゆうべ……


……!!!!

 

 

  

 

 

ほっぺがくすぐったくて目が覚めた。

なにかしらって思って目を開けたら、目の前には褐色の瞳。

「おはよ。僕のほうが早起きなんて珍しいよね?」

ふふっと笑うと、ジョーは私の頬をぺろっと舐めた。くすぐったい。
たまーに私より早く目が覚めたとき、ジョーは私の真似をして私の頬にちょっかいをかける。

「……あの、ジョー?」
「うーん?」

気の無い返事は私の頬を舐めるのに忙しいからだ。

「ちょっとこっち向いて」
「ん?」

きょとんと目の前にきた顔を私は両手で挟み込み、そのまま彼の顔を横向きにさせた。
どこかが変な音をたてたけど構わない。

「ちょっ、痛いんだけどフランソワーズ」
「黙って。だいじなことなのよ」
「なにが?」

ジョーの頬。
私のよく知っている大好きなジョーならば、頬はすべすべのはず……

気付いたら、私はジョーの頬をまんべんなく指で撫で回していた。

彼がこう言うまで。


「もう、やめろよお」


うふ。

彼は本物のジョーだった。

もちろん、頬に髭なんて無い。


「変な夢みたのよ」