3月3日は3がいっぱい・・・のはず?
だって、ダメだろう。そんなこと。 違うキャラクターのコスプレをすれば良かったんじゃないかなあ! そこなんだよ、僕が言いたいのは。 いや、わかってるよ?あれは役者だって。だって僕のフランソワーズは僕の隣にいるんだし。 わかってる。わかってるさ。 ただ。 フランソワーズのような格好をしたひとが誰だか知らない野郎とキスするなんて、見たくもないということだ。 「ジョー?」 ふっと心配そうな声が耳をくすぐり、僕は我に返った。 繋いだままの手に微かに力がこめられる。 「ジョー、大丈夫?」 大丈夫って何が…って、ああそうか。いま、ドラマを思い出してイライラしてたから… 「大丈夫だよ」 もう。また思い出してたんでしょうと言うから、違うよととぼけた。 「もう…ジョーってばかね」 ばかと言われたけれど、これは実は褒められている。 「ヤキモチやきね」 それは違う。 「独り占めしたいだけさ」 フランソワーズを。 「ん、もう!ジョーのばか」 そんなこと、こんな場所で言わないでとフランソワーズは僕の肩におでこをつけた。 平ゼロジョーの鼻先にキスしている平ゼロフランソワーズを見るともなく見ながら、僕は右肩に触れているフランソワーズの温かさだけを感じていた。
―4―
むしろ、アラ平気よなんてコロコロ笑っていられる方が僕には理解できない。
そりゃ、確かにたかがドラマだ。
それはわかるし、作り物の世界であり、いかに視聴者に受けるか否かが最重要課題な世界だということもわかっている。
だからそういう展開になるのもやむを得ないというか…
が、しかし。
だったらさあ!
いくらドラマの話の都合でそういう展開にしたとしても、客観的に見ればフランソワーズが見知らぬ男とキスした図、だろ?
見たくなかったんだよ、僕は。そんなもん。
だから、画面のなかは全然知らない人たちだし、フランソワーズでもない。
絶対に嫌だ。いま思い出しても血液が沸騰しそうだクソっ。
そうだった。ここはカフェだった。
迷惑そうなフランソワーズに無理矢理ついて来たのだ。
相変わらずフランソワーズは目敏い。それが万人に対してなのか、僕限定なのかわからないけれど。
「でも、顔が赤いわ」
これに関してはいくら話しても平行線だから、もう議論はしたくない。時間の無駄だ。
「うん」
その証拠に繋いだ手のひらが開かれて自然に恋人繋ぎになった。フランソワーズのほうから。
「違うよ」
僕はただ単に、
大丈夫だよフランソワーズ。僕らの会話なんて誰も聞いていない。
だって、目の前にいる二人だってこちらが見えていないだろ?
今日は大変遺憾なことが起きた。 しかし。 今日、僕は彼女と一緒に過ごす予定はない。 いいかい? 今日。僕は彼女と一緒に過ごす予定はない。 大事なコトだから二回言った。 「――今日、誰かと会うのか?」 我ながら情けないと思いつつ探りを入れる。声が震えなかっただけよしとしてくれ。 「ええ」 男か? いやまさか。 女子会…いやそれが特別な時になるのかどうか。 可愛い顔でうふふ内緒なのと言うスリーを僕は複雑な気持ちで見つめていた。
―5―
それは朝ギルモア邸でコーヒーを飲んでいた時だった。
いつものようにスリーがカップを渡してくれて、僕もいつものように受け取ったんだけど…危うくカップを落とすところだった。
!?
スリーの指先に新しい色を見つけたのだ。
いや、それだけなら別に動揺したりはしない。新色のネイルに毎回動揺していたら僕はどうかなってしまう。
そうじゃない。
桜色にラメの入ったネイルは、先日の彼女のバースデーに僕がプレゼントしたものだからだ。
いや、もちろんそこは動揺するところではない。そこは普通喜ぶところだろう。
でもそうじゃないのにはわけがあるのだ。
プレゼントした時、スリーは言っていたのだ。「素敵な色ね。特別な時につけるわ」と。
特別な時。
それは、僕と一緒の時間を過ごすときに決まっている。
だからわかってくれるだろう。僕が動揺したことを。
僕の頭のなかは彼女の声で「特別な時につけるわ」と繰り返し再生されていた。
特別な時――今日?いったいどんな予定があるというのだ。僕以外に「特別」と言われるのはいったい誰なのだ。
「ふうん…誰」
「ひみつ」
!?
ひみつ?
ひみつ、って…僕には言えないのか?
ならないだろう。
こんな可愛い顔をさせる野郎はいったいどこのどいつなのか。
僕は帰ったふりをして彼女の後をつけることにした。
「ナインじゃないか。何してるんだ」 「君こそ何してるんだ」 「ミッション中か?」 ナインの防護服姿を見て超銀ジョーが言う。 「潜入調査か何かか?」 変装と見紛う普段着と掛け離れた姿の超銀ジョーにナインが問う。 「違う」 ナインは己の姿を少しうんざりしつつ眺めた。 一方、超銀ジョーも同じような理由でここに来ていたのである…が、彼のほうは至って通常運転であった。 己の行動を鏡に映され示されたような気まずさが漂った。無言のまま相対する。 いや、ちょっと待て。 「っ、009?」 「なんでアイツらが」 同じ009といえどこちらの二人には理解不能であった。
―6―
予想外の邂逅に互いに困惑を隠せない。
「…別に」
互いに痛いところを衝かれむすりと答える。
ここはとあるカフェの外。3月とはいえ冷風吹きすさぶ屋外である。
ここまでスリーを尾行してきて、どうやら003女子会であると確認したところだった。
男と会っているわけじゃないとほっとした途端、誤解した自分を恥じ気まずい思いに襲われていた矢先に声をかけられた。
だからダメージはないはずなのだが、フランソワーズにばれるのと009にばれるのとでは意味が異なる。
カフェの中に平ゼロジョーと新ゼロジョーの姿を捉えた。
女子会なのになぜ居るのか。
「えっ、嘘」 「……」 こめかみを押さえる。 「何か事件でもあったのかしら」 スリーは途端に緊張した顔になる。 ――ううん。事件じゃないわね。 と超銀フランソワーズは思うのだった。 「ちょっと行ってくるわね」 ということで二人揃ってカフェの外に出た。 ** 「ジョー、何かあったの?どうしてここがわかったの」 真剣な表情で矢継ぎ早に質問してくるスリーにナインは内心気まずい思いでいっぱいである。が、表には出さない。 「ちょっと先で事件があって行って来たところだ」 気まずい。 「大丈夫だ。――じゃあ、僕はこれで」 もじもじと視線を手元に落とすとスリーはナインの防護服の袖を引いた。 「じゃあ…私も一緒に帰ろうかな」 こんな格好だし走って帰るつもりなんだけど。 と言うつもりだったけれど言葉に詰まったので、とりあえず咳払いをひとつ。 「ええと、フランソワーズの用は済んでないんだろ?」 そう。003の女子会なのだろうし、今朝の様子から見ると楽しみにしていたのだろう。 「ええ。でも」 ジョーの顔を見たら、もういいかなって。 とは言わず。 女子会といいつつ平ゼロジョーや新ゼロジョーが彼女らと同席していたせいもあるだろう。 「うむ。じゃあ帰るか」 あっさり言うとナインはスリーと指を絡め手を握り締めた。 ** 「もう。何よその格好」 バカなの? 超銀ジョーの今日の姿は初めて見る格好だった。 彼の普段着といえばさっぱりしたシャツにボトムズで色も季節に合っていてそこはかとなくおしゃれである。が、今日はホスト「のような」と言えばむしろ褒め言葉である。ホスト「崩れ」もしくは「成り損ない」に限りなく近い。 「変装したのになあ」 そうだった。 「このカフェに来てたのか。偶然だな」 ねえ、バカなの? 超銀フランソワーズへのストーカー行為が常の超銀ジョーとスリーを尾行してきたナインが出会ったのは何かの奇跡かもしれない。009尾行組を見られることなど早々ない。が、あまり見たい光景でもなかった。 「僕もお茶していいかな」 カフェ内にいる平ゼロジョーと新ゼロジョーを見る。 「あれは」 あの009は甘え組よ――とは言えず。さあどう答えようかと何気なくスリーたちに目をやると、何故か旧ゼロの二人は仲良く帰る算段だった。 全くもう。どれだけらぶらぶなのよ。 「フランソワーズ?」 妙に似合っているのが憎らしい。 「大丈夫さ。009だってばれないよ。ホストにしか見えないだろう?」 ほんと、バカなの? いや ――案外それって私だけかも。 腕を絡めるとにっこり笑いかけた。 しょうがない。今日はとことんお付き合いしてあげましょう。ホストなジョーに。
―7―
突然スリーが立ち上がったのでその視線の先を追って超銀フランソワーズが外を見ると。
白い防護服に赤いマフラーのナインといつもの服装とは掛け離れた格好をした超銀ジョーの姿があった。
もちろん、超銀ジョーの存在などはなから知っていたが改めて認知すると情けなくてため息しかでない。
確かにナインは防護服姿だったから、事件が起こって迎えに来たと考えるのが普通だろう。
がしかし。彼が相対しているのは超銀ジョーであり、超銀ジョーも引き締まった表情をしてはいるのだが、
「待って。私も行くわ」
「えっ、あ、いや」
「えっ、事件…」
「ああ、いや。もう済んだ。――それにしても偶然だなあ。ここにいたのか」
「ジョーは帰る途中なの?」
「ちょうど通りかかったところさ」
「怪我してない?大丈夫?」
「あ、ああ」
なんと言ってもスリーに対して嘘をつくというのはなんとも気まずいのである。
「えっ?帰っちゃうの」
「…通りかかっただけだから」
「中でお茶飲んでいけばいいのに」
「いや、この格好は目立つだろ」
「……そうだけど」
「え?いや、僕は」
しかしまだ一時間も経っていない。ずっと尾けていたから知っている。
代わりにおそるおそるナインの指に触れた。
一緒に来てもいいなら来たかったなとうらやましくなかったといえば嘘になる。
そこへ不意打ちのようなナインの登場である。以心伝心のようで嬉しかったのだ。
この目立つ格好でどうやって普通に帰るのかは――謎である。
「え。何故僕とわかった」
「……わかるわよ」
どこから調達したのか、まるでそう――ホストのような。
全くフランソワーズの好みではない。
なにしろ、この人についていったらとんでもなくぼったくられるクラブに連れて行かれること間違いなしな雰囲気満載なのである。怪しすぎるし、何よりこれが似合っているのがまた問題だった。
「どこから調達したのよそんな格好」
「ああ、これ?忘年会の余興で使ったやつ」
この人の所属するチームはそういうなんだかわからないおふざけが大好きなんだった。
思い出すと数々のことが甦り、深いため息が出た。
ずっと尾けてきたくせに何言ってるの?私が気付かないと思ってるの?
「駄目よ」
「何で」
「今日は女子会なの」
「へえ…じゃああそこにいる009たちはいったい何だい?」
「いいわ。帰りましょ」
「えー。コーヒー飲みたいなあ」
「駄目よ。そんな姿、他の003には見せられないわ」
どこからどう見ても誰が見ても009にしか見えないのに。
「じゃあ、同伴しましょうか?ホストさん」
(その頃の原作ジョー) 寝転がって漫画雑誌を読んでいたが、ふと起き上がって時計を見た。 「迎えに来いって言ってたなあ…」 メンドクサイなあと欠伸をひとつ。
―8―
再びベッドに寝転がった。
(その頃のREジョー) 腕組みして部屋の壁の天使(?)像を睨みつけている。 さてどうしよう
―9―
が、頭のなかは天使像のことや世界平和のことではなくひどく個人的なことで占められていた。
今夜こそは踏んでくれるかもしれない――いや、あまり言って退かれたら困る。
が、天使は神託を下しはしなかった。
END