「気持ち」

バレンタインデー。

といえば、思い人に花を贈る日。

教会育ちのジョーはずっとそう思っていた。
実際、特に仲の良い友人に花を贈ったりもしていた。

が、中学生になった頃からどうも違うぞと気が付いた。
どうやら日本では、女性が男性に思いを伝える唯一の日とされ、チョコレートを添えるものだという。

だからかぁ。
と、ジョーは妙に納得した。
山盛りチョコレートを貰った時にはいったい何が起こったのだろうと疑問だらけだったのだ。


それから数年経つ。

チョコレートなんて貰って当たり前だった日々は遠い。
今は、その日がくるのがなんだか怖い。
チョコレートを貰えるのか貰えないのか、気持ちが落ち着かないのが嫌なのだ。

たかがチョコレート。

されどチョコレート。

フランソワーズから貰えるなら、板チョコの欠片でもきっと嬉しい。

二月に入って街にチョコレートが溢れるのを見るたび溜め息が出てしまう。
フランソワーズに思われているのかどうか、自信があるのかと問われれば
まぁある
と答えるだろう。

なんとも頼りない答えだと自分でも思うが仕方がない。フランソワーズに関しては、自分でも驚くくらい慎重なのだ。
自分に体を委ねてくれるから、気持ちも委ねてくれているのだろう…とは思うものの、絶対そうなのかというと自信がない。
たまたまそうなった…と考えるのは、相手にも自分にも失礼だ。
だから、お互いに気持ちは相手に向いている。と信じたいところである。

しかしまた、だから「フランソワーズから愛の告白であるチョコレートを貰える」のかどうかというとそれはまた別問題なのであった。

あるいは、フランソワーズはそういう日本の儀式を知らないかもしれない。
しかし
かといって、そういう日があるんだよと教えるのは、チョコレートを期待しているようで格好悪い。

考えていくうちに、ジョーは自分が何をしたいのかわからなくなってきた。


2月14日は愛の告白をする日。


だったら。


原点に還ればいいのでは?


日本ではこうだから、と、考えるから落ち着かないのだ。チョコレートなんてどうでもいいではないか。ただのおやつだ。


ジョーは気持ちを決めた。


自分は昔、どうしていたのか。

思い出したら簡単だった。

 

 

 

 

 

バレンタインデー当日。

ジョーは真紅の薔薇の花束を手にフランソワーズの部屋をノックした。


「はぁい」

「フランソワーズ、あの、これ……」

 

 

 

 

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